行方不明高齢者の約4人に1人が要介護認定を受けていない方で、「薬の変更」や「引っ越し」が行方不明のきっかけになり易いと判明!
警察庁の発表によると、2022年中に警察に届け出のあった行方不明者数は、84,910人で、そのうち18,709人(22%)は認知症の方でした。過去最多で、前年よりも1,073人も増えています。そこで高齢者の徘徊の状況と対策を、愛知県の「認知症高齢者の徘徊対応マニュアル改訂版(自治体向け)」と「厚生労働科学特別研究 認知症高齢者の徘徊に関する実態調査」からご紹介します。
(認知症の人には散歩や買い物など外出の目的があり、記憶違いや空間把握ができず迷ってしまうだけです。徘徊とは意味が違いますし、誤解や偏見を招くので「徘徊」を使用しないことに浅海直二郎商店は賛成です。ところが今回の論文もマニュアルも「徘徊」を使用しており、言い換えが難しいので、表現は原文に従っています)
1.行方不明高齢者の年齢・性別・時期・時間帯(認知症高齢者の徘徊対応マニュアル改訂版(自治体向け)より)
年齢
70歳代 47%
80歳代 35%
60歳代 15%
90歳代 3%
性別
男性 56%
女性 44%
徘徊が生じた季節
春 32%
冬 24%
秋 23%
夏 21%
徘徊が生じた時間帯
午後 38%
朝 35%
夜 27%
外出し帰宅困難になる高齢者は、認知症の程度よりも歩き回れる体力のある方が多いです。そのため、警視庁生活安全局のデータによれば徘徊の死亡例は女性に多く、生存例は体力の勝った男性に多いです。
2.行方不明から発見までの日数(認知症高齢者の徘徊対応マニュアル改訂版(自治体向け)より)
警察に捜索願を出してから発見されるまでの時間(生存発見)
6時間未満 65.4%
6~12時間未満 15.3%
12~18時間未満 8.7%
24時間以上 5.8%
18~24時間未満 4.8%
届出から発見されるまでの日数(愛知県警データ、平成26-27年度死亡発見のみ)
翌日 31%
当日 21%
2~4日後 18%
5~9日後 12%
2カ月後 9%
3週間後 6%
4カ月後 3%
見守りネットワーク利用・未利用の発見までの時間(平成26年度市町村データ)
見守りネットワーク利用:発見まで平均15.8時間
見守りネットワーク未利用:発見まで平均43.0時間
行方不明になった場所
自宅 52.6%
移動中 23.3%
入居型サービス事業所 4.2%
通所型サービス事業所 2.2%
病院 2.0%
その他 15.7%
行方不明に気づいた人
同居者 60.2%
サービス事業関係者 11.6%
別居の家族・親族 10.8%
友人・知人・近隣の人等 2.2%
その他 15.3%
警視庁生活安全局のデータによれば、行方不明から発見までの期間が5日以上の場合には、生存者はゼロ。死亡して発見された場合、死因は溺死、低体温症・凍死が多かったです。
それから、「見守りネットワーク」は地方自治体が民間事業者と連携し、日常の業務の中で住民の異変に気づいた場合に市区町村へ連絡していただく見守り活動です。お住いの自治体のホームページなどで探してみて下さい。
3.行方不明時の本人の移動手段と発見場所(認知症高齢者の徘徊対応マニュアル改訂版(自治体向け)より)
行方不明者の移動手段
徒歩 70.4%
自転車 9.1%
自家用車 3.4%
公共交通機関 2.2%
その他 14.9%
行方不明に気づいてからの対応
警察に連絡 44.2%
警察と見守りネットワークに相談 22.1%
見守りネットワークと警察に相談 14.3%
市町村(ケアマネジャー)に相談 8.1%
見守りネットワークに相談 2.2%
その他 9.2%
発見者
一般市民 39.9%
警察 25.9%
不明(自力で帰宅も含む)18.9%
家族・親族 8.9%
ケアマネジャー市町村職員 3.6%
見守りネットワーク 2.8%
発見場所
居住する市町村内 22.0%
居住する県内 21.1%
近所より遠く普段移動する範囲内 15.9%
自宅の近所 12.3%
自宅敷地内 11.4%
県外 2.4%
不明 14.8%
発見場所(愛知県警データ、平成26-27年度死亡発見のみ)
水場 50%
田畑 12%
公園・空き地 11%
山林 9%
線路 6%
その他 12%
行方不明の高齢者を発見したり、保護したりした方は、街の一般の方々(市民)が約4割を占めます。行方不明に気付いたら、より多くの方々の協力を得られる方法を直ちに取ることが大切です。届出が遅れれば遅れるほど、遠方に行きかねません。また、近所に水路やため池など水場があると危険性は高くなります。
4.行方不明になりやすい認知症高齢者の特徴
☆特に70歳代~80歳代の認知症の方が多い
☆どのタイプの認知症でも行方不明は発生する
☆認知機能障害がごく軽度でも、あるいは障害が進行していても徘徊は発生する
☆認知機能障害の程度よりも、移動能力(歩行能力)と徘徊の関連性が高い
☆徘徊は繰り返す。(平成28年度愛知県調査データでは、徘徊を繰り返す回数は最大で5回)
☆徘徊時に要介護認定を受けていた方は全体の約60%で、要支援や介護保険未申請・未利用の高齢者でも徘徊が生じている
☆徘徊経験患者196名のカルテ分析から、徘徊を起こす予兆となるきっかけとして、「薬の変更」や「居所の変更」、「家族関係」等が認められた。特に「薬の変更」は「徘徊頻度」が少なくなったり、徘徊が消えるなどの強い関係が認められた。
5.認知症高齢者の徘徊に備えるためのポイント
☆徘徊ではなく理由があるので、生活歴に関係する場所を捜す。以前の自宅、よく買い物に行っていたスーパー、勤めていた会社など。
☆徘徊は何度も繰り返すことが多いので、一度徘徊した場合は近所の方や近所の商店、交番、地域安全センター等に写真を示して1人で歩いている時の声かけを事前にお願いする。
☆夕方になると落ち着きをなくし、出かけようとしたり、自宅にいるにもかかわらず「家に帰る」と言い出す場合は、一緒に外出して気分が落ち着くまで近所を歩く。
☆夜間の徘徊を防ぐ方法として、定期的に昼間、運動する習慣を作る。適度に運動してエネルギーを発散し、心地よい充実感や疲労感を味わうことで外出衝動が改善する場合があります。
☆GPS探知機を使った徘徊探知機を、高齢者のバックや靴に装着する。
☆名前や住所・緊急連絡先などの情報をQRコードにし、靴やサンダルなどに貼る。愛知県警458件のデータでは、「発見者に自分の住所・氏名を言えた」153件、「発見者に自分の住所・氏名を言えなかった」305件で、約2/3は自分の住所・氏名が言えませんでした。
☆高齢者のスマホに位置情報を発信するアプリをダウンロードしておく。
☆自治体の徘徊見守りSOSネットワークなどに登録しておく。
☆約30分目を離したすきに徘徊が生じたケースもあるので、玄関に鈴を下げたり、センサーを付けて音を出したりデータ記録を残す。
☆早期発見のために、行方不明に気づいたら警察・ケアマネジャー等の市町村窓口・町会・自治会・消防団・徘徊見守りSOSネットワークなどに連絡する。愛知県の調査では、行方不明から警察への届出へ平均7.6時間かかり、発見までに14.2時間かかっています。
☆徘徊のリスクに備えて認知症に特化したデイサービスや認知症対応に慣れている施設を探す。
☆介護が困難になった場合は、早めに認知症専用の老人ホームやグループホームの利用を検討する。
6.近所で徘徊と思われる高齢の方を見かけた時の接し方
☆本人を驚かせないように声をかけて下さい
☆同じような速さで歩きながら、横または斜め前からできるだけゆっくりと笑顔を向けて声をかけます
☆「どちらへ行こうとしていますか?」「車が多いから気を付けてくださいね」「お疲れのご様子ですが、大丈夫ですか?」などと声をかけて反応に注意してください。
☆突然腕を掴んだり、手をひっぱったり驚かすような対応をするとパニック状態に陥る可能性が高いです。
☆交番に誘導できれば最高です。
2-3年前、住宅街でボサボサの白髪に古びたスーツを着て、サンダルをつっかけた姿で十字路の真ん中に70代くらいの男性が突っ立ってました。不思議に思いつつも仕事に急いでしまいましたが、もしかするとあの男性は迷子だった?無事に帰宅できた?
あなたが介護なさっている方が行方不明にならないよう、心から祈ります。
☆「認知症高齢者の徘徊に関する実態調査」厚生労働科学研究成果データベース https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/23668
☆「認知症高齢者の徘徊対応マニュアル改訂版」愛知県 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/chiikihoukatu/ninchisho-pamphlet.html
☆「認知症の行方不明者が増加中|徘徊の原因から対応の方法まで全て紹介」学研の高齢者住宅 https://www.cocofump.co.jp/articles/byoki/94/
☆「令和4年における行方不明者の状況」警察庁生活安全局人身安全・少年課 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/fumei/R04yukuefumeisha.pdf
以上