女性限定!1日に多品種の食品を食べる中年期の食習慣は、将来の認知症リスクを33%も低下させる!
認知症の発症率に性差があり、女性は男性の1.4倍多く、アルツハイマー型認知症では90歳以上の女性は男性の5.8倍にもなります。でも、女性のみなさまへ朗報です!1日に多品種の食品を食べる女性は食品の種類が最も少ないグループに比べて認知症発症リスクが33%も低下しました!この論文を紹介します。
1.食事の多様性が認知症リスクに及ぼす影響を全国規模で調査することとなった背景
国立長寿医療研究センターは、老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)を1997年から行っています。これは、同じ人を長期にわたって繰り返し調査し、老化の過程や認知症、骨粗鬆症、老人性難聴などの老年病発症の要因とその予防法を見つけ出すための研究です。
この長期縦断疫学研究(NILS-LSA)から、魚に多く含まれるDHA(*1)や牛乳乳製品の摂取(*2)は認知機能低下を抑制する可能性が示されています。また観察研究(*3)からオメガ3脂肪酸、抗酸化物質、ビタミンBなどの特定の栄養素は、加齢に伴う認知機能障害の予防に役立つ可能性があります。
けれど、これらの研究はコミュニティベースで実施され、DHAの研究は2000年~2002年に地域在住のシニア430名を対象に調査された結果です。牛乳乳製品の研究は、2002年~2012年に地域在住シニア570名が対象に過ぎませんでした。
そこで全国規模で日本人を対象とした、食事の多様性が認知症リスクに及ぼす影響を調べることとなりました。
2.研究対象と方法
対象:1995年と1998年に、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、高知県中央東の5保健所管内にお住まいだった方々のうち、調査開始時の食事調査票記入に協力し、虚血性心疾患・脳卒中・がんの病歴のない方
人数:38,797名(男性17,708名、女性21,089名)
年齢:45~74歳
追跡調査期間:中央値11.0年(中央値:データを小さい順に並べたグラフでちょうど中央にある値)
グループ分けの方法:食事摂取頻度調査票の「133項目の食品・飲料(アルコールを除く)を1日に何種類摂取しているのか」を得点化し、食多様性スコアによって、対象者を人数が均等になるように5つのグループに分類
調査方法:食多様性スコアと介護保険認定情報から把握した認知症との相関について解析
11.0年(中央値)の追跡期間中に発生した認知症:4,302名(発症率11.1%、男性9.6%、女性12.4%)
3.結果
☆女性の場合、食事の多様性スコアが高くなると認知症リスクが下がる逆相関を示した。
☆女性では、食事の多様性スコアが最も低いグループに比べ、最も高いグループでは、認知症発症リスクが33%低下した。
☆男性では、食の多様性スコアと認知症リスクの間に関連性はみられない。
☆食の多様性スコアが高い参加者は、総身体活動レベルがより高く、孤独生活および現在の喫煙率がより低い。
☆魚、肉、野菜、果物、大豆製品の多様性は、食の多様性スコアが高い参加者が他の参加者より高かった。
☆食の多様性スコアがより高い参加者は、エネルギー、ナトリウムの摂取量、主な食べ物と飲み物(アルコールを除く)の摂取量も高く、脂肪エネルギーが高く、炭水化物エネルギー率は低かった。
☆一人暮らしで食多様性スコアが高い男性に限った場合では、認知症リスクが低い傾向にあった。
これは私の解釈ですが、数多くの種類の食品を毎日食べている方は、体がよく動き、人付き合いもあり、タバコを吸っていない。つまりお元気で、明るく楽しそうな姿が浮かび上がります。
また数多くの種類の食品を毎日食べている方の食事の傾向として、魚・肉・野菜・果物・大豆製品の種類を豊富に召し上がっています。ご飯やパンからエネルギーを摂るのではなく鯵や鮭、牛・豚・鶏肉などの脂質から多くのエネルギーを摂っていらっしゃいます。お茶漬けで簡単に済ませるのではなく、肉や魚や乳製品などいろいろなお料理を楽しんで召し上がっていらっしゃるのでしょう。
食事を楽しんで、認知症リスクも減らすことが出来れば一石二鳥です!
4.結論と可能性
女性限定ですが、さまざまな食品を食べることで、認知症を予防できる可能性があります。食の多様性が高い女性では、様々な栄養素の摂取状況が好ましいため、多様な食品の摂取により脳内の栄養状態が良くなり、認知症発症が予防された可能性が考えられます。
また共同研究グループは、男女差を説明する一因として、男女の食関連行動の違いについて考えました。日本のシニアは、女性は同居者の有無に関わらず食事の準備を行っている傾向があります。が、男性は独り暮らしの場合は食事の準備をしても、同居者がいる場合は食事の準備をしない傾向が報告されています。
本研究では、食事の準備に関するデータは収集していないため推測の域を出ませんが、食多様性の高い食事をとるために献立を考えたり、買い物に出たり、料理をする食行動が認知機能の維持、ひいては認知症発症を予防したことが推察されました。
この異常な暑さのお陰で、ご飯の用意は暑くて面倒な仕事ですが、認知症予防と思えばちょっとは諦めもつきます。何も手伝わないで、食べるだけの人がゴロゴロしているから腹が立つんですよね・・・とにかく、肉類、魚介類、卵類、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜類、海藻類、果物、いも類、および油脂類の10食品群をなるべく多種類、美味しく頂きましょう!
謝辞:共同研究なさった国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典 所在地:愛知県大府市)の研究グループと、国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉 所在地:東京都中央区)の研究グループの先生方、ご協力なさったボランティア等全ての皆様に感謝するとともに、この研究の進展・発展を祈念します。
注)
*1:「【認知症予防】食事と認知機能(1)―魚油に多く含まれるDHA」https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/18.html
*2:「【認知症予防】食事と認知機能(2)―牛乳・乳製品」https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/21.html
*3:「Diet, cognition, and Alzheimer’s disease: food for thought」SPRINGER LINK https://link.springer.com/article/10.1007/s00394-013-0561-3
参照した論文やニュースリリース等
☆「Dietary diversity and risk of late-life disabling dementia in middle-aged and older adults」CLINICAL NUTRITION https://www.clinicalnutritionjournal.com/article/S0261-5614(23)00031-6/fulltext
☆「食品摂取の多様性と要介護認知症との関連について」国立がん研究センター https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/9093.html
☆「国立高度専門医療研究センター6機関の連携事業により食品摂取の多様性が将来の認知症発症を予防することを明らかにしました」国立長寿医療研究センター https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20230310.html
☆「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」国立長寿医療研究センター https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/ep/index.html
以上