人生が濃縮されたご馳走の尊さを教えてくれる『人生最後のご馳走』
自分の命が残り少ないと悟った時に、「ご馳走」が残り少ない命の時間を味わい、自分が過ごしてきた時間を慈しむ為に果たす役割を、教えてくれる本をご紹介します。
『人生最後のご馳走 - 淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院のリクエスト食』青山ゆみこ著、2015年刊、幻冬舎、本体1300円、ISBN978-4-344-02826-5
この本は、著者の青山ゆみこさんが大阪市東淀川区にある淀川キリスト教病院のホスピスで、患者さん1人1人が食べたいお食事を依頼する「リクエスト食」を始めたという新聞記事に接したことから始まります。小さなこの記事は、彼女のメンターでもあった大先輩が亡くなられる半年前のある体験とリンクします。
それは、肝臓がんの転移と戦い、抗がん剤と強い痛み止めの副作用で食事が摂れない状況だった大先輩が、彼女がお見舞いに持参した老舗の洋食店「アラスカ」の「ダブルコンソメ」と呼ばれるコンソメスープを美味しそうに飲み干した時の幸せそうな様子でした。『「うまいなあ。うまいなあ。ありがとう」わたしの目をのぞきこむようにぐっと見てにっこり笑い、再び目を閉じて何かを思い出しているようだった。』(4ページから引用)
こうして青山ゆみこさんは、淀川キリスト教病院ホスピスに2年間も通って取材を行い、14人もの末期がんの患者さんからお話を伺い、さらに管理栄養士さん、看護師さん、調理師さん、副院長からもお話を伺ってこの本を書き上げていらっしゃいます。
この本はB6版、159ページでとても読みやすい一冊です。
14人の方が「リクエスト食」として選んだ「ご馳走」、例えば『家族みんなが大好きな天ぷら』や『ほくほくの芋の煮物』など14メニューの「ご馳走」にまつわる思い出や生き方、あるいは価値観などが語られています。
さらに、平均入院期間が約3週間の患者さんのために、この「リクエスト食」を支えている管理栄養士さん、看護師さん、調理師さん、お医者さんへのインタビュー記事が間に挟まれていて、「リクエスト食」の舞台裏も披露されます。
管理栄養士さんはこうおっしゃっています。『「(前略)患者さんにとって食事は、単なる栄養補給でも《味の表現》でもありません。医師や看護師とは異なる形で私たちもまた心のケアの一端を担っています。心が元気にならなければ体はついてこない。それには食はとても大切です」』(48ページより引用)
「リクエスト食」にポタージュスープを選ばれた、肝臓がんでがん性腹膜炎の片岡さん(73歳)は、こうおっしゃっています。
『ここは私みたいなただの主婦でも、一目見たら病人の口に合わせて丁寧に心を込めて作ってるのがわかりますよ。それで腹水が溜まってものも食べられなかったのに、みるみる食欲が戻って驚異的な回復をしてね。感激して調理師さんに手紙を書いたんです。(中略)三男夫婦も来るので、私のリクエスト食と家族食を6食も用意してもらいます。前の病院では寝てるだけだった人間が、そんな段取りまでできるほど元気が出たんです。びっくりでしょ。』(73ページから引用)
そして、この「リクエスト食」を支える管理栄養士さんは、こうおっしゃっています。
『「(前略)死を意識したとき、人には人生が走馬灯のように思い出されるといいますが、美味しいご飯はきっと幸せな記憶を呼び起こしてくれますよね。一瞬でもその幸せな風景に浸れるような時間が患者さんに訪れたらいいなといつも感じています」』(49ページより引用)
ホスピスで2年も取材を続けられた青山ゆみこさんは、『おわりに』でこう記されています。
『末期の患者さんにお会いするようになり、私が最初に強く感じたことは、「死」が近づいているとしても、生きている限り、人はやっぱり死から遠ざかっているということだった。末期であってもまだ食べたり話したりができる方に限られていたせいもあるだろうが、お会いした方はみんな、翌日の食事を楽しみにされていて、つまり前を向いて過ごされていた。近い未来に「死」が見え隠れしたとしても、人が生きるということは前に進むことなのだ。』(156ページより引用)
読み終えると、コンソメスープが五臓六腑に染み渡る様子が伝わってきました。この淀川キリスト教病院ホスピスの素晴らしさ、心と体をケアする「ご馳走」の力、そして人生や気持ちが濃縮されている「ご馳走」の尊さを、この本は教えてくれます。
《ご参考に》 淀川キリスト教病院 http://www.ych.or.jp/
以上