軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!(Simona RobováによるPixabayからの画像)

アルツハイマー病の前段階である軽度認知障害(MCI)は、ほとんど自覚症状がないため、発見が困難です。ところが、筑波大学医学医療系ニュートリゲノミクスリサーチグループは、安価な任天堂の「バランスWiiボード」を利用してバランス能力測定を行ない、早期に軽度認知障害(MCI)を発見できるシステムの開発に成功しました。創業も目指しているこの研究を紹介します。

1.なぜバランス能力を測定するのか?

認知症やその前段階の軽度認知障害(MCI)の方の多くは、歩行異常や転びやすいなどのバランス障害を伴うことが知られています。

例えば2016年にY市在住の高齢者335名を対象に行った研究調査(*1)では、軽度の認知機能障害のある高齢者では認知機能障害のない高齢者に比べて、教育歴の低さとバランス能力および活動能力の低下が顕著でした。

(教育歴に関しては、論文の考察で『またFujiwaraらは,教育歴が低い対象者ほど,自身の健康への関心が少なく,予防健診や介護予防事業への参加率が低いと述べており,教育歴の短さが軽度認知障害(MCI)の早期発見を阻害するひとつの要因とも考えられる。』との記載があります。)

この論文は、軽度認知障害(MCI)の早期発見には教育歴および両目を開けた状態で片足立ちを保持できる時間(開眼片足保持時間)の測定が有効かもしれないとまとめています。

このような先行研究から、バランス能力に着目しました。

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!(Jaesung AnによるPixabayからの画像)

2.なぜ任天堂ゲーム機用の「バランスWiiボード」を利用するのか?

すでに医療機器として認証されている「重心動揺計(グラビコーダ)」という機器があります。これは、直立姿勢時に現れる体の揺れを記録・解析し、体のバランス機能を検査する装置です。めまいや平衡障害の検査に耳鼻科や神経内科で用いられる他、リハビリテーション、歯科、スポーツ医学など広い分野で平衡機能の評価に使われています。

ところが非常に高価です。アニマ社製の重心動揺計GW-5000は、レンタル5日間の費用が175,000円。竹井機器工業製の重心動揺計グラビコーダ GW-31(ポータブル型)の定価は3,168,000円。

そこで研究チームは、「低価格で使いやすい軽度認知障害(MCI)を発見できるシステムを実現する」という目標のために、任天堂ゲーム機用の「バランスWiiボード」に注目しました。

バランスWiiボード」は任天堂のゲーム機で、日本中で簡単に手に入り、価格もAmazonによると12,600円から購入できます。

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

任天堂「バランスWiiボード」

これを利用して、研究チームは「バランスWiiボード」が参加者の体の揺れを追跡および記録し、姿勢を測定および計算する Windows用アプリケーションを開発しました。

参加者が安静姿勢で「バランスWiiボード」の上に立ち、体の圧力中心 (COP) の瞬間的な変動を測定。さらに、足を動かさず体をまっすぐにしたまま前後左右に体を傾ける 10 秒間の体の圧力中心 (COP)の瞬間的な変動を記録。「バランスWiiボード」からこのデータを取り込み、Windows用アプリケーションで解析。

その結果、「バランスWiiボード」は医療用の本格的な安定計 (GP-6000グラビコーダー (アニマ社、東京、日本) ) と同じくらい正確に姿勢を測定する優れたパフォーマンスを示しました。

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!(Jaesung AnによるPixabayからの画像)

3.研究チームはバランス能力と前庭機能を評価する新しい指標「姿勢安定性視覚依存度指標(VPS)」も開発

研究チームは、正確に姿勢を測定する安価なシステムを開発した上で、更にバランス能力と前庭機能を評価する新たな指標を開発しています。それは、以下のような流れから生まれました。

機器を認知障害と認知症の特徴として、アルツハイマー病の方は、転倒する頻度が高い。

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認知障害が転倒の危険因子になる。

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新たな証拠として、認知機能の早期障害が、遅い歩行および歩行の不安定性と関連している。

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歩行とバランスが深く関係していることを考慮すると、認知機能とバランス能力の間に何らかの関係があるに違いない。

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!(marliesplatvoetによるPixabayからの画像)

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さらに、内耳の中にある前庭に三半規管と耳石器官があります。この三半規管と耳石器官は、人の体が空間のなかでどのように動いているかを知るためのセンサーです。頭の傾きや向き等を検知し,その情報を中枢神経が頭の中の前庭小脳に送ることで自分の体の傾きや方向等を検知します。また筋肉からの感覚,眼球からの情報も前庭小脳に送られて、総合的に自分の身体の傾きや動きを把握します。

これらの機能により、立った状態を保ったり、転倒しないで歩くことができます。

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アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)と認知症の方の中に、前庭障害がばらついた状態でいっぱい増えていることを示す証拠が増えている。

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以上の事実から研究チームは、バランス能力と前庭機能を評価できる新しい指標、「姿勢安定性視覚依存度指標(VPS)」を開発しました。

「姿勢安定性視覚依存度指標(VPS)」は重心動揺計の上に立つことが出来る方であれば、誰でも5分程度で測定可能な、簡便な身体能力指標で、既に特許出願済みだそうです。

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!(Julita ❄️♡💛♡❄️によるPixabayからの画像)

4.臨床研究の内容と成果

2020年12月から2021年2月まで、認知障害や慢性疾患等のない健康なボランティアを学部ホームページ、学内掲示板、地域情報誌などを利用して募集。その結果は以下の通り。

年齢:56歳~75歳

人数:49人

調査項目:年齢、性別、運動習慣、飲酒習慣、就労、運転などと体の組成

認知機能の測定方法;5種類のテストにより評価(MoCA、MMSE、CDR、TMT-A および -B テスト)

バランス能力の測定方法:任天堂の「バランスWiiボード」を重心動揺計として使用し、「姿勢安定性視覚依存度指標(VPS)」で評価

☆認知機能テストMoCAの点数と「姿勢安定性視覚依存度指標(VPS)」の数値に、認知テストの点数が高いほど「姿勢安定性視覚依存度指標(VPS)」の数値が低くなる、負の相関が現れた。

☆認知機能テストMoCAで軽度認知障害(MCI)と判定された16人は、健常者33人より「姿勢安定性視覚依存度指標(VPS)」の数値が明らかに高かった。

☆今回の研究により、任天堂の「バランスWiiボード」を用いて、簡便かつ高感度で「軽度認知障害(MCI)」のスクリーニングを行なうことが出来ることが判明した。

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!(Josef SchillerによるPixabayからの画像)

5.期待が膨らむ今後の予定

2023年2月7日に発表された筑波大学のプレスリリースによれば、『判定の特異性を高めるため、他の手法との組み合わせを検討した上で本研究成果を実用化する予定』だそうです。

2009年に発表されたロナルド・C・ピーターセン博士の論文(*2)によれば、『正常な認知機能を有する高齢者がアルツハイマー病へ移行する確率は年間1~2%であるが,「軽度認知障害(MCI)」からアルツハイマー病へ移行する確率は、年間10~15%である。』とのこと。

厚生労働省によれば、2012年の日本の65歳以上の高齢者における、軽度認知障害(MCI)の方の有病率は13%と推定され、約400万人の軽度認知症の方がいるそうです。(*3)

2022年9月15日の推計(*4)によれば、65歳以上の高齢者人口は、3627万人軽度認知障害(MCI)の方の有病率は13%なので、軽度認知障害(MCI)の方が472万人いらっしゃると推定できます。この中の47万~70万人の方が2023年に、病状が進行して認知症になっていらっしゃると思われます。

また、認知症の有病率は15%なので、認知症の方が544万人いらっしゃる計算になります。認知症に罹られたご本人も辛いと推察しますが、介護のひっ迫が心配です。このままでは介護施設も満杯になり、訪問介護の方にも来ていただけなくなるのでは・・・

でも、希望もあります。2021年6月、アルツハイマー病の治療薬としてアデュカヌマブが、米国食品医薬品局(FDA)により承認されました。7月には、FDAは軽度認知機能障害または軽度認知症の病期の患者に適応を限定していますが、初めての治療薬です。そして、筑波大学発ベンチャーとして創業準備中の【任天堂の「バランスWiiボード」を用いる「軽度認知障害(MCI)」の早期発見システム】が一般化されれば、アデュカヌマブが有効な早期に「軽度認知障害(MCI)」状況を発見できます。早期なら治療も可能です!

筑波大学医学医療系ニュートリゲノミクスリサーチグループの「軽度認知障害(MCI)」の早期発見システム創業を心から応援します!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!

軽度認知障害(MCI)を任天堂「バランスWiiボード」を活用して早期に発見できるシステム開発に、筑波大学研究グループが成功!(StockSnapによるPixabayからの画像)

謝辞:筑波大学医学医療系ニュートリゲノミクスリサーチグループの矢作直也准教授をはじめ、研究グループの皆様、ご協力なさったボランティア等全ての皆様に感謝するとともに、この研究の進展・発展とベンチャーの一日も早い創業を祈念します。

参照

*1:「軽度認知機能障害に該当する高齢者の身体機能・活動能力・精神機能の特徴」原著JapaneseJournalofHealthPromotionandPhysicalTherapyVol.6,No.2:59-64,2016 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/hppt/6/2/6_59/_pdf/-char/ja

*2: 「Mild cognitive impairment: ten years later」National Library of Medicine https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20008648/

*3:「認知症の疫学」健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/about.html

*4:「高齢者の人口」総務省統計局 https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1321.html

☆「New balance capability index as a screening tool for mild cognitive impairment」BMC Geriatrics https://bmcgeriatr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12877-023-03777-6 

☆筑波大学ニュースリリース 軽度認知障害の新しいスクリーニング方法を開発 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20230207141500.pdf

☆軽度認知障害(MCI)の新しいスクリーニング方法を開発~アルツハイマー病の早期治療介入を可能に~ TSUKUBA JOURNAL https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20230207141500.html

☆NUTRIGENOMICS RESEARCH GROUP. (ニュートリゲノミクスリサーチグループ)https://plaza.umin.ac.jp/nutrigenomics/

以上

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