2022年は、お互いに許して、傷ついた出来事は忘れて、無邪気に明るく生きませんか?
2020年、2021年と2年にも渡って、ずっと新型コロナウイルスに苦しめられた日々でした。いえ、今もオミクロン株の市中感染が拡大中です。コロナ禍で、仕事を失ったり、突然知り合いが逝去したりと辛いことがいつもより多いからこそ、家族や友だちの心遣いが身に染みます。人との絆の中で生きている有難さを感じます。
Mさん、同じ話を繰り返すのはもう止めませんか?
Mさんは70代の女性です。50代に発病した持病をかかえ、お身体も不自由です。が生来の負けず嫌いで、頭の回転の速さと他人を言い負かすことが出来る口の速さが自慢です。新型コロナウイルスの感染が始まった頃には、未知の感染病に対する恐怖に圧倒され、Mさんの愚痴話も影を潜めていました。けれど新型コロナウイルス禍での毎日に慣れてくると、再び同じ愚痴話を繰り返すようになったそうです。
何十年もの前の初出産に夫が立ち会わなかった話、生まれた子どもが男の子じゃなかったからと慰労の言葉もなかった話、持ち込まれた投資話で自分の意見が正しいにも関わらず、夫がにべもなく遮って失敗した話・・・
失礼ですがこんなカビが生えた昔の話をお嬢さんやお友だちに何千回と繰り返し話し続けることができるのは、Mさんご自身は正しい、悪くないと思っていらっしゃるからですよね。Mさんは被害者で、悪者は夫や姑。現在の経済的な苦しさは、夫が自分の正しい意見に従わなかった結果で、全ての責任は夫にあるということですね。
Mさん、苦しくないですか?同じ話を繰り返すことを、もう止めませんか?
Mさんは確かに被害者です。女だからと進学が認められず、戦争で多くを失い、結婚後は専業主婦として家庭に閉じ込められました。ご自身で人生の選択肢を選ぶチャンスが与えられなかった訳です。
選択権がないのですから、受験に失敗する苦しさや何十通と履歴書を提出し、面接を受けても採用されない苦痛もご存じありません。正しいことは1つと限らないし、正しさが重要でないこともあると組織の中で気づかされる経験もありません。
負けず嫌いのMさんは、限られた条件の中で歯を食いしばって負けないことを目標に生きていらっしゃった気がします。料理教室に通って料理の腕を磨いたのは、夫に「うちのメシは美味しい」と認めさせるため。新聞の家庭欄を熟読し、推薦図書を子どもたちに買い与えたのは教育熱心な母親として認められるため。
そして子どもたちの独立後に残ったのは、持病を抱えたご自身と頼りない夫と古びて傷んだ持ち家だけ。歯を食いしばる目標を失ったせいか、Mさんの身体から怒りや憎しみに満ちた過去のエピソードがフツフツととめどなく湧きだします。
Mさん、苦しくないですか?辛い生き方を、もう止めませんか?
話は飛びますが、重松清さんの「カシオペアの丘で」を読んだことはありますか?
『誰かをゆるさずに生きていくっていうのは、そういうことなんだ。心の底ではゆるしてやりたい相手を、ずっとゆるさないまま生きていくのは、寂しいことだろ?誰かを憎んだり恨んだりするのを支えに生きるのって、それはやっぱり寂しいだろ?』(下巻、2007年初版、第17章324ページより引用)
この一節を読んだとき、Mさん、あなたを思い出しました。
Mさんはきっと、まじめで負けず嫌いな凛々しい少女だったのだと思います。凛々しい少女はいつの間にか、負けず嫌いや正義感がこうじて憎んだり恨んだりすることにズレてしまったのではないでしょうか?重松清さんは、この「カシオペアの丘」でこうも言っています。
『ゆるしたことって、覚えてないでしょ。ゆるさなかったことは、やっぱり忘れないじゃないですか。だから、ひとをゆるすってことは、忘れるってことなんだと思うんですよ』(下巻、2007年初版、第17章318ページより引用)
だからもう、憎んでいる相手も恨んでいる相手も許して、過去の辛い出来事をみんな忘れませんか?お腹の底でたぎる怒りや憎しみの相手を許して、すっきりと忘れませんか?忘れてしまえば、同じ話を繰り返すこともなくなります。胸のつかえが消えて、きっと心が軽くなります。
許して、辛い出来事を忘れて、もっとふわふわと無邪気に生きませんか?
2022年こそ、もっともっと皆さまが幸せになれますよう心から祈ります。 浅海直二郎商店拝
《参考》
『カシオペアの丘 (上・下巻)』重松清(しげまつ・きよし)著、2007年初版、講談社、各1,500円(税別)上巻ISBN978-4-06-214002-7,下巻ISBN978-4-06-214003-4 講談社文庫 上巻 下巻
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