国立長寿医療研究センターの調査で判明!ご両親の心身の幸せに必要なものは、美味しい食事と栄養です!
国立長寿医療研究センターの調査研究報告書の中で、とても興味深い研究を見つけました。それは、「栄養」と「生活の質」に関する大規模調査です。(①)ご自宅で生活・療養なさっているご高齢の皆様の栄養状態を調査し、この時に協力してくださった方々の1年後の状況を追跡調査。そのうえで、より質の高い生活を送るために栄養改善のケーススタディを実施なさったそうです。
追跡調査から、感覚として想像していたことが、驚く形で表されています。今回はこの素晴らしい研究を、わかりやすくご紹介します。(出典は、最下段にまとめて表示、『』は引用)
また、今回も桜の写真をふんだんにお届けします。お花見の自粛が求められた春ですが、せめて写真でお楽しみください。
1.ご自宅で生活・療養なさっている方々の栄養状態は?
平成24年の最初の調査は、日本全国で、「訪問診療」や「訪問介護」などを自宅で受けていらっしゃる、65歳以上の男女、990名が対象です。身体測定や栄養状態から、日常生活の自立度や認知症の状態、生活習慣から1日の食費の金額まで、詳細に調査が行われています。(②)この中から、特に重要と思われる割合をご紹介します。
A.栄養状態
「低栄養」 36.0%
「低栄養のおそれあり」33.8%
「栄養状態良好」 26.3%
つまり、約70%の方は栄養不足です。ご高齢で低栄養の方は、食事を噛んだり、飲み込んだりすることに問題があり、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)や褥瘡(じょくそう:床ずれ)といった病気を併発する危険性が高いと指摘されています。(①)
B.飲み込む力 女性14.5%と男性22.7%に誤嚥があったそうです。
この飲み込む動作(嚥下)がうまくできない状態が続くと、食事を楽しめず、低栄養や脱水症状になりやすくなります。また、誤嚥は誤嚥性肺炎に繋がりやすく、死に至る危険性が高まります。
2.在宅療養1年後の死亡リスクは?
大規模調査を行った翌平成25年に、追跡調査を実施。年齢別や男女別でもリスクが異なりますが、在宅療養で1年後に亡くなられるリスクは18%でした。(解析の詳細は①の15ページ参照)
では、この死亡リスク18%を念頭に、数字を見てみましょう。
A.栄養状態と死亡リスク
「低栄養」だった方の死亡リスク 28.4%
「低栄養の恐れ」だった方の死亡リスク 17.3%
「栄養状態良好」だった方の死亡リスク 11.9%
つまり、栄養状態が良いと死亡リスクを下げることができます。
B.噛める範囲と死亡リスク
「どんなものでも噛める」方の死亡リスク 15.9%
「たいていのものは噛める」方の死亡リスク 15.2%
「噛めないものもあり、食べ物が限られる」方の死亡リスク 22.0%
「ほとんど噛めない」方の死亡リスク 26.5%
「全く噛めない」方の死亡リスク 41.5%。
「全く噛めない」方の死亡リスクは、「どんなものでも噛める」方のリスクの2倍以上に達し、突出しています。
噛み砕く力、つまり咀嚼(そしゃく)の障害は、加齢や脳血管の病気、あるいは神経筋の病気などによって起こるそうですが、改めて自分の口でお食事を頂く大切さが身に沁みます。
C.飲み込む力と死亡リスク
「誤嚥があった」方の死亡リスク 25.8%
「誤嚥はない」方の死亡リスク 16.7%。
肺炎は、がん、心疾患に次いで3番目に多い死因です。肺炎で亡くなる方の多くは高齢者で、中でも誤嚥性肺炎で亡くなる方が約80%。誤嚥性肺炎で入院している70歳以上の方が、毎日2万人もいらっしゃるそうです。(③)しかし、希望もあります。嚥下(えんげ)障害は、リハビリで劇的に改善されることもあるそうです。
D.栄養を摂る方法と死亡リスク
「口から食べられる」方の死亡リスク 18.0%
「口から食べられない」方の死亡リスク 26.8%
口から食事を摂り続けることは、食事を噛み砕き、飲み込む力の維持にもつながります。さらに、中枢神経を刺激し、覚醒度を高める効果もあるそうです。
E.食欲と食への意識と死亡リスク
「食欲がある」方の死亡リスク 16.6%
「食欲がややある」方の死亡リスク 18.9%
「食欲はわずかにある」方の死亡リスク 22.8%
「食欲はない」方の死亡リスク 25.0%
「食事がとても楽しみ」な方の死亡リスク 15.3%
「食事がやや楽しみ」な方の死亡リスク 13.7%
「食事があまりたのしみでない」方の死亡リスク 24.2%
「食事は全く楽しみではない」方の死亡リスク 35.5%
「食欲がある」方や「食事を楽しみ」にしている方の死亡リスクは、18%を下回ります。けれど、「食事は全く楽しみではない」方の死亡リスクは「食事がとても楽しみ」や「やや楽しみ」な方の2倍以上です。
「食欲はない」や「食事は全く楽しみではない」は、低栄養に繋がります。低栄養は、認知機能の低下、免疫力や体力の低下、筋肉量や筋力の低下、骨量減少による骨折の危険性の増大に繋がります。そして、低栄養と日常生活動作(ADL)の低下の組み合わせでは、さらに死亡リスクが高まるとの研究報告もあります。(④)
この調査研究(①)では、訪問診療・訪問介護など多職種チームでそれぞれの方にふさわしい食事状況の改善を提案・実施し、事例を報告なさっています。
3.多職種チームが行った栄養改善の事例
★『デイサービス担当者の「食べさせたい」という強い思いが発端となり、「ミキサー食から刻み食へ変更」する際に、「食材によって一口大とキザミにわけることでバラエティに富んだ食事を提供』できるように工夫なさったそうです。
★『「自分で箸を持って食べる自力摂取の機会を増やすこと」やデイサービスの利用等により「ひとりで食べる個食を減らし、声かけによる好き嫌いの食べ残しを減らすこと」等、食環境の改善』が図られたそうです。
★『「ヘルパーと連携し、本人の嗜好と合う食事の提供」を行うことで、「家族と食事を楽しむ」ようになり、「認知機能の改善」や「体重の増加」「便秘の改善」等の結果が得られていた。』
★『「食卓でのお茶」の機会を設けることで、(ご本人が)「食卓での食事を希望」し始め、「当初はベッドで食べていたのが、後半は食卓で食べる機会も増えた』そうです。この方は残念なことに『調査中での死亡となったが、「死亡直前まで、笑顔で生活することができ」、「食事を通して同じ目標に向かって、ケア、看護を統一することができた」』と報告されています。
この事例報告の「③帰結」の項では、以下のようにまとめられています。
『「栄養改善への多職種による介入」が良好で、「介護者の協力」が得られると、<本人の食事への意識>が高くなり、食欲の向上や体重の維持増加、生活意欲の向上が認められた。』
あるフランスの作家は、紅茶に浸したマドレーヌの味から幼少時代を鮮やかに蘇らせますが、お母様やお父様の思い出の味は何でしょうか。お食事は、栄養を摂るだけでなく、幼少期に馴染んだ味に懐かしさを募らせたり、大好物に心地よさを感じたりします。気持ちの張りや喜びに繋がります。体と心の健康と幸せのために、食事が大切とこの報告書が示しています。
《出典》*わかりやすくするために、一部の数字のみ掲載。詳細は下記の報告書を参照ください。
謝辞:下記の報告書・論文の著者の皆様に感謝を申し上げ、今後の更なる発展を祈念します。
(①)平成25年度老人保健健康増進等事業 在宅療養患者の栄養状態改善方法に関する調査研究報告書https://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/roken/rojinhokoku4_25.pdf
(②)平成24年度老人保健健康増進等事業 在宅療養患者の摂食状況・栄養状態の把握に関する調査研究報告書https://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/roken/rojinhokoku4_24.pdf
(③)「70 歳以上の高齢者の誤嚥性肺炎に関する総入院費の推計値(2014年)」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg/28/4/28_366/_pdf
(④)在宅療養要介護高齢者における栄養障害の要因分析 the KANAGAWA-AICHI Disabled Elderly Cohort(KAIDEC)Study よりhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/51/6/51_547/_pdf
以上