漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる!

漢方の認知症治療は、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができること!

漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる! (Josep Monter MartinezによるPixabayからの画像)

宮崎県のけいめい記念病院、脳神経外科の岡原一徳先生が2018年に学会で講演なさった記録から、認知症のBPSDを漢方薬で治療する話を紹介します。

1.脳の中で「神経伝達物質のバランス障害」が起こっているので、BPSDが発症します

☆高齢になると、脳の中に使用済みで不要なタンパク質が溜まってしまう

人は高齢になると誰でも、いろいろなタンパク質を脳の中で使った後に、それらを分解・排泄する処理が上手くできなくなります。加齢と共に脳の中に様々なタンパク質が溜まってしまいます。 

 ⇓

そのため、65歳~70歳前半で認知症になった方々とは異なり、85歳以上の認知症は、分解・排泄されずに脳に溜まってしまったタンパク質の影響を受けて病状が混じり合って現れます。この人はアルツハイマー型認知症、この人はレビー型認知症、この人は脳血管性認知症と整然と分けられないという特徴があります。

☆高齢になると、脳の中の神経伝達物質が正常に働かないからBPSDが起こる

いろいろな考え方がありますが、認知症のBPSD はなぜ起こるかといえば、次のような考え方が重要だと思います。脳の中でさまざまな神経伝達物質(*1)が動いていて,それが調和をもってバランスよく動いている状態で、脳は正常な働きができます。

     ⇓

ところが、神経伝達物質の調和が失われ、バランスが崩れると「神経伝達物質のバランス障害」という状態になります。認知機能低下の方やBPSDを発症している方の脳の中では「神経伝達物質のバランス障害」が起こっているので、BPSDが現れるといわれています。

漢方の認知症治療は、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができること!

漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる! (EnriqueによるPixabayからの画像)

☆漢方薬治療は、陽性BPSDと陰性BPSDの両方を注視しつつバランスを取りながら治療できる

ご家族は、「眠れません」「暴力的です」「非常に怒りっぽくて困ります」と陽性BPSDの症状を訴えられる方が多いです。そこで、陽性BPSDの症状を中心に治療します。

     ⇓

すると逆に、抑制系の神経伝達物質が過剰になり、陰性BPSDが強くなりすぎて「意欲がなくなる」、「食欲がなくなる」ということが起こってきます。

     ⇓

また別のケースで、「意欲の低下」や「食欲不振」で衰弱した患者さんに抗認知症薬をどんどん投与したとします。

     ⇓

すると、興奮系の神経伝達物質が優勢になりすぎて、陽性BPSDが悪化します。ですから、陰性と陽性のBPSD それぞれに目を向けて、バランスを取りながら、治療をする必要があります。

患者さんが高齢であればあるほど、薬の安全性と効果を見極めるためにも、バランスを取ることが重要です。

漢方の認知症治療は、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができること!

漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる! (beauty_of_natureによるPixabayからの画像)

2.認知症の治療に「抑肝散(よくかんさん)」を投与した症例

85歳男性、アルツハイマー型認知症

主な症状:易刺激性(*2)や興奮、妄想が激しい

NPI(認知症患者の BPSD の頻度と重症度および介護者の負担度を数量化することができる神経心理検査)の評価:19点、介護者の負担が過重

MMSE(認知機能障害を簡易的にスクリーニングするための検査方法)の評価:14点、中等度くらいの認知症

身体:身長182㎝、体重82㎏

初診時の服用薬:抗認知症薬「ドネペジル」、抗精神病薬「ハロペリドール」

治療経過

①抗認知症薬ドネペジルを5 mgから2.5mgに減らし、「抑肝散」の服用を開始。

4週間後興奮妄想怒りっぽさ(易刺激性)など陽性BPSDが改善

2年経過後も、認知症とBPSDの悪化はない

漢方の認知症治療は、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができること!

漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる! (Blanca DíazによるPixabayからの画像)

☆「抑肝散」に対する岡原一徳先生の評価

*興奮や妄想、易刺激性など陽性BPSDに効果がある。

*神経伝達物質セロトニン(*3)の神経系への作用があるので、うつや不安など陰性BPSDに対する効果もある。

「抑肝散」が神経伝達物質セロトニン(*3)の神経系へ作用した効果により神経伝達物質のバランスを取り戻すので、陰性BPSDにも陽性BPSDにも効果を発揮すると考えている。

*「抑肝散」を長期服用した場合、6カ月や1年でもBPSDの改善は続き、Zarit介護負担尺度(*4)で家族の介護負担が減っていた。

「抑肝散」の副作用としては、低カリウム血症や浮腫が知られている。年齢が高いほど起こりやすく、85 歳以上になると、1年半服用する5 人に1 人くらいの割合で低カリウム血症や浮腫が起こってくる。

*抗精神病薬に過敏な場合、「抑肝散」を服用すると効果がある。

*「抑肝散」は多成分系の漢方薬なので、複数の作用を持っているため副作用が少ない。

岡原一徳先生は、特別講演でこう発言なさっています。

「抑肝散」で『本人のBPSD がよくなりましたというより、まわりでこの人を介護している家族負担が減るということはすごく大事なことです。それによって安心してその方と一緒に暮らせるということが、治療としては大きな目標というか、結果として求められるものだろうと思います。』(「高齢者医療における漢方治療:認知症の周辺症状を中心に」から引用)

漢方の認知症治療は、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができること!

漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる! (LaniusによるPixabayからの画像)

3.認知症の治療に「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」を投与した症例

◎86歳男性、アルツハイマー型認知症

主な症状:頑固で易刺激性(*2)が激しく、介護拒否、入浴拒否

今までの病歴:82歳認知症を発症。抗認知症薬「ドネペジル」と抗認知症薬「メマンチン」を服用。

FASTスケール(ADLの障害の程度をみることで、アルツハイマー型認知症の進行度および重症度を7段階で評価するスケール)の評価:6c、やや高度のアルツハイマー型認知症、不適切な服装、入浴介助が必要、入浴を嫌がる、トイレの水を流せない、失禁

身体:不明(講演記録に記載なし)

治療経過

「抑肝散」の服用を開始し、他の西洋薬も変更。

入浴拒否がなくなり、気分が落ち着く。

③87歳、暴言・暴力・頭痛・腹痛が現れる。FASTスケールで6

④88歳後半頃から、食事に介助が必要感情が不安定で言葉による意思疎通が困難昼夜逆転食欲低下、FASTスケールで6e~7(*5)。

⑤89歳、「人参養栄湯」の服用を開始。

元気になり、食欲も回復。認知機能は、FAST6d 前後で変化はない。

治療してもこの男性の認知機能は改善しません。けれど岡原一徳先生は、特別講演でこう発言なさっています。

とにかく元気に食べられるようになって非常に明るくなったというのは、家族にとっても施設の介護者にとってもすごく重要なことです。(「高齢者医療における漢方治療:認知症の周辺症状を中心に」から引用)

漢方の認知症治療は、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができること!

漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる! (Angeles BalaguerによるPixabayからの画像)

☆「人参養栄湯」に対する岡原一徳先生の評価

*112 例に「人参養栄湯」を処方し、1ヵ月後と3ヵ月後に体重と食欲を評価できた79 例中62 例(78.4%)で効果が確認できた。

*「人参養栄湯」を処方する基準は、3ヵ月で3 kg 以上の体重減少。

「人参養栄湯」は、体重減少や認知機能,アパシー(自分の身の回りのことでさえ、無気力・無関心になってしまう状態)の症状(*6)のある方の約8 割で効果がある。

*高齢で認知症の方は食べていても体重が減ってしまう方も居るので、体重減少の停止や体重増加に転じるには、服用開始から3ヵ月ぐらいの時間も必要。

*86歳で、アルツハイマー型認知症+脳梗塞を患っていた女性は、「人参養栄湯」で食欲回復すると認知機能も改善した。

*「人参養栄湯」は、フレイルといわれる高齢者の虚弱にも効果が期待できる。

*「人参養栄湯」は多成分系の漢方薬なので、複数の作用を持っているので副作用が少ない。

漢方の認知症治療は、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができること!

漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる! (Anna ArmbrustによるPixabayからの画像)

4.高齢者の認知症治療のゴールとは

宮崎県のけいめい記念病院の副院長で、脳神経外科の岡原一徳先生(*7)が2018年の特別講演で以下のようにお話をまとめていらっしゃいます。

『食べること、動くこと、眠ること、こうした当たり前のことが継続的に生活リズムをもってできるということが、実は認知症の高齢者にとってはすごく大事なことだろうと思っています。

そういうことを家族と確認し共有し合うことで、認知症治療が上手く行っていることを確認できます。

認知症治療のゴールは、認知機能改善、BPSD の改善ではなくて、もう少し長い目で見て、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることです。そして最終的にはその人の人生をどういう形で締めくくるかということも含めて、考える必要があるあります。(「高齢者医療における漢方治療:認知症の周辺症状を中心に」から引用)

久しぶりに心が震えるような素晴らしい先生に巡り合えました。もしもあなたが、暴言や暴力、介護拒否や入浴拒否、あるいは徘徊や食欲不振・無気力・無関心などに困っていらっしゃったら、西洋医学はもちろん漢方医学でも専門的に診察してくださる先生を探してみてはいかがですか?介護される方も介護するあなたも、一緒に暮らすみんながより良い時間を、漢方薬治療で共有できるかもしれません。

漢方の認知症治療は、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができること!

漢方の認知症治療なら、BPSDの改善だけではなく、その人がその人らしい生活をしっかり長い間送ることができる! (Josep Monter MartinezによるPixabayからの画像)

謝辞:社会医療法人慶明会 けいめい記念病院 脳神経外科副院長 岡原一徳先生に感謝するとともに、漢方薬が高齢者の健康長寿によりいっそう役立ち、認知症の家族を在宅介護なさっている方々の負担が少しでも軽減されるよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。

注)

*1: 「第20回神経伝達物質」より『私たちの体の中のいろいろな部分が働く時には、他部位と共同したり、競合したり、または反対方向に働くなど互いに影響しあう現象が起こっています。ミクロの世界で、この情報を伝えるのが神経細胞です。

情報は、神経細胞から隣の神経細胞へ、または神経細胞から近接する筋肉へ伝わりますが、その際には、最初の神経細胞から次の神経細胞へ、または神経細胞から筋肉へある成分が受け渡しされます。その、「ある成分」を神経伝達物質と言います。

この、神経伝達物質を受け取る側の神経細胞や筋肉には「受容体」という、それぞれの神経伝達物質に特異的な受け取り装置があります。

神経伝達物質が隣にある神経細胞の受容体に結合することにより信号が伝わり、その連絡が次々に行われることにより情報が拡がります。また神経伝達物質が筋肉の受容体に結合するとその筋肉の収縮が起こります。

神経細胞は脳だけでなく、脊髄、末梢神経、更に、全身に分布する自律神経からも分泌されます。

3大神経伝達物質として有名なのが、ドーパミン、セロトニン、ノアルアドレナリンで、これらは脳内で精神現象のコントロールをするのが知られています。』医療法人ひまわり会札樽病院 札樽病院ブログ https://www.sasson-hospital.jp/blog/%E7%AC%AC%EF%BC%92%EF%BC%90%E5%9B%9E-%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E4%BC%9D%E9%81%94%E7%89%A9%E8%B3%AA.html

*2: 「症状別病気解説 イライラ」より『物事が思う通りにならなかったり、不快なことがあったりして神経が高ぶり、いらだっている状態を指します。医学的には、ささいなことで不機嫌になることを「易刺激性(いしげきせい)」、怒りっぽいことを「易怒性(いどせい)」といいます。』社会福祉法人恩賜財団済生会 https://www.saiseikai.or.jp/medical/symptom/frustrated/

*3: 「健康用語辞典 セロトニン」より『脳内の神経伝達物質のひとつで、ドパミン・ノルアドレナリンを制御し精神を安定させる働きをする。必須アミノ酸トリプトファンから生合成される脳内の神経伝達物質のひとつです。視床下部や大脳基底核・延髄の縫線核などに高濃度に分布しています。

他の神経伝達物質であるドパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)などの情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。

セロトニンが低下すると、これら2つのコントロールが不安定になりバランスを崩すことで、攻撃性が高まったり、不安やうつ・パニック症(パニック障害)などの精神症状を引き起こすといわれています。』e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-074.html

*4: 「高齢者を支える制度とサービス 介護負担とは」より『もっとも有名な評価法は米国のZaritによるものです。Zaritは介護負担を「親族を介護した結果,介護者の情緒的,身体的健康,社会生活および経済的状態に関して被った苦痛の程度」と定義し、22項目から構成されている介護負担尺度を作成しました(Zaritetal.,1980)』健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/kaigo-seido/kaigo-hoken/kaigo-futan.html

*5:「スケール・指標 FAST:Functional Assessment Staging of Alzheimer’s Disease|アルツハイマー型認知症の進行度、重症度評価スケール」より『FASTは、ADLの障害の程度をみることで、アルツハイマー型認知症の進行度および重症度を7段階で評価します。重症度が高まるにつれ、徐々に症状も進行していきます。 段階7.高度のアルツハイマー型認知症:最大約6語に限定された言語機能の低下。理解しうる語彙はただ1つの単語となる。歩行能力の喪失。着座能力の喪失。笑う能力の喪失。混迷および昏睡』ナース専科 https://knowledge.nurse-senka.jp/500221

*6:「認知症高齢者に見られるアパシーってなに?」より『アパシー(apathy)は、もともと社会学で用いられていた概念で、世の中で起こる事象に対する無関心を表す言葉でした。 しかし近年、心理学でも使われるようになり、周囲の事象に対してだけでなく、自分自身の身の回りのことでさえ、無気力・無関心になってしまう状態を指す言葉として用いられるようになりました。 高齢者にアパシーが見られる場合、これまで実践されてきた生活習慣が乱れ、健康面や衛生面であらゆる無精が目立つようになります。 例えば、今まで散歩など外出することを習慣にしていた人が急に引きこもりがちになったり、入浴や歯みがき、着替えなどをしなくなります。 特に一人暮らしや夫婦ともに高齢者の世帯の場合、周りの目が行き届きにくいものです。久々に自宅を訪れてみたら、脱いだ洋服や下着が散乱していたり、部屋中ホコリまみれだったりという場合は、アパシーの症状が出ている可能性が高いと言えるでしょう。』ちくさ病院 在宅医療 https://chikusa-zaitaku.jp/news/p16777/

*7: 社会医療法人慶明会 けいめい記念病院 https://www.keimei-kinen.com/

特別講演「高齢者医療における漢方治療:認知症の周辺症状を中心に」【脳神経外科と漢方】2019年5巻1-9頁、医療法人慶明会けいめい記念病院脳神経外科 岡原一德 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnkm/4/1/4_06/_pdf/-char/ja

☆「日本脳神経外科漢方医学会」https://nougekampo.org/

以上

Follow me!