「高齢者のペダル踏み間違い事故」を防ぐ方法と、万が一の備えをご紹介します。
友人が80代後半のお父様の運転を心配して、免許返納を勧めているのですが拒絶され続けています。業を煮やした彼女が、お父様の車のカギを隠したことから事態は悪化。あなたの身近でも、運転免許返納親子喧嘩はありますか?
今回は、損害保険料率算出機構が発表した「高齢者のペダル踏み間違い事故」を防ぐ方法と、万が一に備える対策をご紹介します。
1. ペダル踏み間違い事故は、75歳以上で急増
ペダル踏み間違いというのは、ブレーキとアクセルの踏み間違い事故のことです。2016~2020年の車両事故は約189万件で、そのうちペダル踏み間違い事故が占める割合は全年齢の平均で約1%。24歳以下と65歳以上の割合が高く、特に75歳以上の場合には急増します。(グラフは以下のURLを参照https://www.giroj.or.jp/publication/accident_prevention_report/pdf/misstepping.pdf#view=fitV )
2.高齢者のペダル踏み間違い事故が発生しやすい場所や動作
高齢者のペダル踏み間違い事故が一番発生しやすい場所は、「道路以外の場所」で75歳以上の場合10%を超えています。続いてペダル踏み間違い事故が発生しやすい場所は、「交差点付近」と「単路(カーブ)」で、75歳以上の場合、約4%を占めています。
また動作では、「発進時」にペダル踏み間違い事故が起こりやすくなっています。
駐車場では、発進時のペダル踏み間違いだけでなく、ハンドルの切り返し等の際にアクセルとブレーキの踏み替えが必要なため、急なハンドル操作などから事故に繋がり易くなります。
3.ペダル踏み間違い事故の原因
ペダル踏み間違い事故は、危険を認知し、危険を回避しようとする時に慌てたり・パニックに陥ることで操作を間違え、事故に発展すると考えられます。
- 認知機能の低下
認知機能が低下すると、注意を向ける範囲が狭くなり、歩行者や障害物等を見落としたり、気づくのに遅れて慌ててしまいます。また、行動のコントロールもしづらくなります。
そのため、「アクセルにある右足⇒ブレーキに移動させる⇒右足でブレーキを踏む」という動作が、認知機能の低下に伴って行動のコントロールがしづらくなり、行動の抑制を省略していきなり、「アクセルにある右足⇒右足でブレーキのはずのアクセルを踏む」行動をとってしまう可能性があると国際交通安全学会で指摘されています。
- 身体機能の低下
視力の低下や視野の狭まりも、運転時に注意を向けられる範囲に影響を及ぼします。また、発進や後退時に周辺の目視確認のために体をひねる等、運転姿勢を変える際にも事故が起こりがちです。
関節が固くなっている場合に、ブレーキと思って踏み込んだペダルが実際はアクセルで、足が届いていなかったという踏み間違い事故も発生しています。さらに加齢によって足の感覚が鈍くなると、ペダルの位置を正しく把握できなくなる可能性もあり、ペダル踏み間違いに影響すると考えられます。
4.ペダル踏み間違い事故を防ぐ方法
- 速度を落とし、運転に集中する
慌てたり、パニックになると誤操作を誘引しやすいので、意識的に速度を落とし、運転に集中しましょう。
- 駐車場では、できる限りブレーキペダルに足を乗せ、クリープ現象を活用する
駐車場は死角が多いため、突然車や歩行者が出てくる等予想外の事態に直面し、パニックに陥りやすい場所です。そのため、ペダル踏み間違い事故が多く発生します。
周囲の状況をよく確認し、オートマティック車では、入出庫時等の状況に応じて、出来る限りブレーキペダルに足を乗せた状態でクリープ現象を活用した運転を心がけましょう。
(クリープ現象:オートマティック車で、シフトレバーを走行位置にシフトすると、アクセルペダルを踏み込まなくても車両がゆっくりと動く現象。ただし、バッテリー電気自動車やハイブリッド車等では、クリープ現象が発生しない車種もあります)
- 発進・後退時には危険を自覚し、足の位置とシフトレバーの位置を確認する
発進・後退の前に目視確認等で体をひねると、右足の位置がずれてしまう可能性があります。目視確認等を終えたあとは、正しい運転姿勢に体を戻し、正しいペダルに足を置いているか確認しましょう。
また、予想外の方向に車が進むとパニックに陥り、慌ててペダルを踏みこんで大事故に繋がりかねないので、発進・後退の前にシフトレバーが正しい位置にあるか確認しましょう。
- 「安全運転サポート車」や後付けの「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」を検討する
ペダル踏み間違い時に加速を抑制する装置や、衝突のおそれがある場合に自動的に作動するブレーキを装備した、「安全運転サポート車」が増えています。また、安全技術が装備されていない車でも、後付けの「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」を取り付けることができる車もあります。
一定年齢以上の高齢運転者等を対象に、後付け装置の導入費用を補助する自治体もあるので、お住まいの自治体の制度を確認なさってみてください。(参考:「東京都高齢者安全運転支援装置設置促進事業補助金」期限間近!令和4年3月末で終了します。)
5.万が一の備えに自動車保険の補償内容を確認する
JR東海は91歳で認知症患者だったAさんが線路内に侵入し、列車と衝突し死亡した事故についてJR東海が列車遅延等の損害をこうむったとし、Aさんの配偶者および長男らに対し損害賠償約720万円を求めました。2016年最高裁判所は判決で、家族が介護に深くかかわっている等、本人と家族の関係性によっては、その家族が本人を監督すべきとして賠償責任を負う可能性もあると示しました。
つまり、認知症等の責任無能力者と別居している親族でも、責任無能力者との関係性によって監督義務者として賠償責任を負う可能性があります。自動車保険標準約款もこの判決を受けて、2021年6月には対人賠償責任保険、対物賠償責任保険の被保険者に監督義務者を含める改定が行われ、補償対象となりました。
ただし、この補償範囲の拡大は保険会社や保険商品ごとに異なります。どうか加入なさっている自動車保険の約款を確認なさってください。
☆高齢運転者のペダル踏み間違い事故 https://www.giroj.or.jp/publication/accident_prevention_report/pdf/misstepping.pdf#view=fitV
☆認知症高齢者による交通事故の賠償責任 https://www.giroj.or.jp/publication/accident_prevention_report/pdf/senior_driver_1.pdf#view=fitV
☆ 損害保険料率算出機構 https://www.giroj.or.jp/
☆公益財団法人 国際交通安全学会 https://www.iatss.or.jp/
☆東京都 令和3年度 東京都高齢者安全運転支援装置設置促進事業補助金 https://www.tomin-anzen.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/kakusyutaisaku/koureisha/hojokin/tomin/
以上