漢方薬治療:認知症のBPSD、興奮・暴力等が鎮まり、意欲・食欲が回復し、介護拒否も消えて劇的に回復した実例を紹介!
8月21日に「レカネマブ」がアルツハイマー病の治療薬として承認されました。でも、東京新聞によれば価格が「日本では1人当たり年間100万円台後半になるのでは?」(*1)とのことです。そんなに高価なら、漢方薬の方が頼りになります!認知症のBPSDを、陽性と陰性に分けて投薬し、漢方薬服用で劇的回復を遂げた症例を「認知症診療におけるQOL,生命予後改善を見据えた漢方治療の有効性」(*7)から紹介します。
1.背景にある医療・介護現場の切望
☆一刻を争う急患患者の中に認知症患者が増加
病院に搬送された認知症患者さんの中には環境の激変から陽性BPSD(認知症の周辺症状、不穏、興奮、暴力など)が一気に現れ、酸素マスクや点滴を自分で抜き取り、治療に抵抗するケースが増えています。
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急患で入院した認知症患者で、入院時から不穏・不安・焦燥・暴力など陽性BPSDが現れ、治療に抵抗を示した患者さんに「抑肝散(よくかんさん)」を毎日投与し、経過を観察。陽性BPSDに「抑肝散(よくかんさん)」が効くかを検証しました。
☆肺炎等で入退院を繰り返す患者さんに共通する陰性BPSD(*2) の進行
陰性BPSDが進行し、意欲・食欲が低下したため低栄養化し、免疫抵抗力も低下。食物を噛み砕き飲み込む力が弱くなり、誤嚥性肺炎で何度も入退院を繰り返す患者さんも激増しています。
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誤嚥性肺炎の回復後は、出来るだけ早く陰性BPSDを改善し、栄養状態と免疫抵抗力を良好な状態に戻す必要があります。
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誤嚥性肺炎の回復早期から「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を投与し、再入院を防げるかどうか、1年間経過を観察。陰性BPSDに「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」が効くかを検証しました。
BPSDは認知症の周辺症状ともいわれ、陽性症状と陰性症状に分けることがあります。(*2)
陽性症状:幻覚、妄想、せん妄、徘徊、興奮、過食、暴力、暴言などの興奮性の症状
陰性症状:抑うつ、無気力、意欲低下、無関心、無言などの抑制性の症状
2.症例1:88歳女性、糖尿病・高血圧・慢性心不全で、陽性BPSDの場合
現病歴:
◎5年前から記憶障害(*5)が緩やかに進行。アルツハイマー型認知症治療剤「リバスチグミンパッチ製剤」を試したが副作用のため中止。
◎2年前から遂行機能障害(*3)が現れ、他にも興奮、暴力、徘徊があり、血圧も上昇し,慢性心不全の急性悪化で入退院を繰り返すようになった。
◎今回は、風邪をひいて心不全が悪化して入院。
頭部MRI検査:全般的に脳萎縮がかなりあり。
胸部レントゲン画像:胸部正面X線画像で心臓の幅と胸郭の幅の比率が女性は55%以下が適正だが、62%あり心臓の肥大が認められた。(*4)
東洋医学的所見:絶えずイライラし、両側の瞼を閉じる筋肉のけいれんが見られた。
治療経過:①入院時より不穏・興奮が現れ、点滴や酸素マスクを自分で外し、治療は困難。「抑肝散」の投与を開始。
②その日の夜には、陽性BPSDが鎮静化。
③陽性BPSDが鎮まったことで西洋医学的治療はスムーズに行われ、心不全は劇的に回復。
3.症例4:86歳女性、高血圧症で、陰性BPSDの場合
現病歴:①高血圧症で近所のかかりつけ医の診療をうけている。
②5年前からじょじょに短期記憶障害(*5)と遂行機能障害(*3)が進行し、認知症の進行を遅らせる「抗認知症薬ガランタミン」等の投与を受けていた。
③6カ月前から家に引きこもり、食欲が低下。
④2カ月前から食欲が極端に低下し、寝たり起きたりとなった。
⑤3週間前から上手く飲み込めなくなり、痰の量が増えた。
⑥2日前から発熱し、呼吸困難に陥ったためかかりつけ医から紹介入院となった。
頭部MRI検査:全般的に脳の萎縮あり。
胸部CT画像:気管支肺炎パターンあり。
漢方医学的所見:気力がなく、声は聞き取りにくい。皮膚は乾燥し、全身が衰弱状態。
治療経過:①肺炎治療のため、西洋薬の点滴を中心に治療。肺炎回復時より「補中益気湯」の投与を開始。
②漢方薬服用の数日後から活気・食欲が回復し,栄養状態も改善し,身体活動性が向上した。
③退院後の約1年間,肺炎の再発による入院もなく,元気に通院中である。
4.漢方ならBPSDを陽性と陰性に分けて治療し、病後の体調改善も悪化予防もできます!
長寿科学振興財団が運営している「健康長寿ネット」。このホームページの「高齢者の病気」の項目に「認知症」があり、「認知症の周辺症状(BPSD)とは」のページに以下の表記があります。
『最近、漢方薬の効果が注目され、中でも抑肝散(よくかんさん)は認知症の幻覚、興奮・攻撃性、焦燥感・易刺激性、異常行動において効果が期待できます。』(*6)
そしてこの症例報告(*7)の筆頭著者、玉野雅裕先生によれば、「抑肝散(よくかんさん)」は以下のような漢方薬です。
「抑肝散」は熟睡を誘導し、自律神経を安定させます。血の貯蔵庫である肝臓の陽気(体を活発に動かすエネルギーのようなもの)が病的に亢進してしまう状態を抑え、同時に全身の「気」の流れを促し、「血」の巡りを改善する多面的な作用を持ちます。さらに「気」の流れが「滞った」状態を改善させつつ、鎮静作用もあります。
一般的に陽性BPSDに対する西洋薬は、非定型抗精神病薬や,抗不安薬等が使われます。が,高齢者では鎮静作用が効きすぎて、誤嚥性肺炎の誘発や転倒骨折などの副作用が問題になっています。その点、「抑肝散」は適切に鎮静化をもたらし、安全性が高いと言えます。
『突然、興奮する。怒りっぽくなる。(中略)玄関から逃げようとするお母様。病院で頂いた眠剤も効かず、昼間は穏やかなのに、夜になると暴れだす。夜中の2時頃から30分おきに布団から逃げ出し、徘徊し、転び、はいずりまわる。そのお母様を追いかけて、睡眠不足が続いた彼女は・・・』(*8)お母様も介護する彼女もお互いに命を削るような状況だからこそ、「抑肝散(よくかんさん)」が効いたらどんなに有難いことでしょう!
もしもあなたが興奮状態や徘徊、あるいは暴力や介護拒否に困っていらっしゃるなら、『医師の診察により健康保険で薬剤投与を受けられる』(*9)漢方医学を試してみませんか?
謝辞:協和中央病院 東洋医学センターの玉野 雅裕先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬が高齢者の健康長寿によりいっそう役立ち、認知症の家族を介護なさっている方々の負担が少しでも軽くなりますよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。
注)
*1: 「認知症新薬レカネマブ (下)期待と課題 高い薬価と副作用 懸念」2023年3月1日 07時03分 東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/233832
*2:「Q:漢方薬による認知症治療―認知症」富山大学付属病院の先端医療 http://www.hosp.u-toyama.ac.jp/guide/amc/33.html
*3: 「遂行機能障害:計画を立てたり,計画通りに行動したりすることができない」日本神経心理学会 船山道隆先生(足利赤十字病院神経精神科)http://www.neuropsychology.gr.jp/invit/s_suikokino.html
*4: 「胸部レントゲンについて 心胸郭比(CTR : Cardio-Thoracic Ratio)」医療トピックス 吉祥寺あさひ病院副院長安田隆 https://www.zenjinkai-group.jp/column/new/%E8%83%B8%E9%83%A8%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%80%80%E5%BF%83%E8%83%B8%E9%83%AD%E6%AF%94%EF%BC%88ctrcardio-thoracic-ratio%EF%BC%89/
*5: 「記憶障害とは 記憶障害の種類と対応」認知症ねっと https://info.ninchisho.net/symptom/s20
*6:「認知症の周辺症状」更新日:2019年11月 8日 15時46分 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/shuhen.html
*7: 症例報告「認知症診療におけるQOL,生命予後改善を見据えた漢方治療の有効性」脳神経外科と漢方2017年3巻1号p.57–62 玉野雅裕、加藤士郎、岡村麻子、星野朝文、高橋晶 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnkm/3/1/3_11/_pdf/-char/ja
*8: 2019年7月ブログ「人生の最期の季節をどう生きるのかを、母に教えてもらっているのね(前半)」https://kizuna-iyashi.com/2019/07/05/homemade-17/
*9: 「高齢化社会における漢方医学の役割 フレイル予防を中心に 小川恵子」2020年11月25日 明日の臨床 Vol.32 No.2 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/http://asunorinsho.aichi-hkn.jp/wp-content/uploads/2020/12/2020_3202_02.pdf
参考資料
☆「認知症新薬レカネマブ (上)どんな薬? 原因物質除去、治療に光」東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/233670
☆症例報告「認知症診療におけるQOL,生命予後改善を見据えた漢方治療の有効性」の研究グループの先生方の病院(2016年12月時点)
◎玉野雅裕先生:協和中央病院東洋医学センター〔〒309-1195茨城県筑西市門井1676-1〕及び筑波大学附属病院
◎加藤士郎先生:野木病院、協和中央病院東洋医学センター、筑波大学附属病院
◎岡村麻子先生:つくばセントラル病院、協和中央病院東洋医学センター
◎星野朝文先生:霞ヶ浦医療センター耳鼻咽喉科、筑波大学附属病院
◎高橋晶先生:筑波大学医学医療系災害・地域精神医学
☆「日本脳神経外科漢方医学会」https://nougekampo.org/
以上