肉類を多く食べているシニアは、フレイルになりにくく、歩く速さも速く、筋肉が衰えにくいことが判明!
日本ハム(株)と東京都健康長寿医療センターは、お達者健診に参加した512名のシニアを対象に、肉類の摂取量とフレイルを示す指標との関連を検討。その結果、肉類を多く摂取しているシニアは全力で歩く速さが速く、フレイル予防に肉類が有効と判明。この結果とお勧め鶏むね肉レシピを紹介します。
1.フレイル予防の栄養素の中で、特に肉類に注目
私たちの体では肉や魚などを食べると、消化酵素によりアミノ酸という小さな分子に分解され、小腸で吸収されて、アミノ酸は血液の流れに乗って全身に運ばれます。「蛋白同化ホルモン」というホルモンが、このアミノ酸を再び集めて筋肉や骨を作ります。
そもそもたんぱく質は、9種類の必須アミノ酸と11種類の非必須アミノ酸で構成されています。このうち9種類の必須アミノ酸は体内で作り出せないため、食品から摂取しなければなりません。アミノ酸スコアとは、たんぱく質に含まれる必須アミノ酸の量を示す評価法で、アミノ酸スコアは0~100の数値で示されます。
肉は、アミノ酸スコア100です。しかも牛肉・豚肉・鶏肉すべてがアミノ酸スコア100と表示されています。(脂身を除く)
このような仕組みなので肉類を食べれば、他のたんぱく質よりも筋肉や骨を作りやすいと言えます。
また、鶏、牛、豚などの代表的なお肉に存在するアミノ酸の一種「イミダゾールジペプチド」は、人間の筋肉中にも存在し、運動パフォーマンスの向上や疲労軽減に役立ち、膝の曲げ伸ばしや片足立ちの向上に関連するとの研究報告もあります。(*1)
このような背景から、肉類の摂取量がフレイル関連因子を調べる栄養素として選ばれました。
2.分析の対象と方法
東京都健康長寿医療センター研究所は、板橋区にお住まいの65歳以上の高齢者で、特に後期高齢期における健康と自立の維持を目的とした学術研究に賛同いただいた方を対象に、「お達者研究」をおこなっています。今回の調査研究の対象と方法は以下の通りです。
分析対象者:512名
平均年齢:73歳
聞き取りによる調査:基本情報、食事調査
医学的検査:血清アルブミン値の測定
運動機能検査:歩行速度(10mを歩く速さ)、握力、身体組成の測定
上記の聞き取りや測定を行った上で、1日あたりの肉類摂取量をカロリーに換算して3グループに分けました。
第1グループ:0~124kcal
第2グループ:125~200 kcal
第3グループ:201 kcal以上
この3グループで、フレイルに関連する指標との関係を調べました。
3.分析により判明した結果
☆肉類摂取量が多いほど、最大歩行速度が速い
☆肉類摂取量と要介護認定の割合に、関連が認められた
☆肉類摂取量とエネルギー摂取量に、関連が認められた
☆高齢期のフレイル予防に肉類が有効である
「最大歩行速度」とは、一定の距離をできるだけ速く歩いた時の速度です。65歳以上の高齢者では、加齢により「最大歩行速度」が遅くなることが判明しており、高齢者の運動能力を代表する指標の1つです。
2010年に発表された研究報告によると、『後期高齢者のIADL(基本的な日常生活動作)低下を予測する因子として,歩行能力が重要であることが確認された。』(*2)この研究では、75歳以上の地域在住シニア131名の握力・片脚立位時間・5m通常歩行時間・老研式活動能力指標を測定し、3年後に追跡調査を実施しています。
つまり「最大歩行速度」の低下は、料理・家事・掃除をしたり、買い物をするなどの日常生活動作に必要な筋力の低下を意味します。
ところが今回の結論、≪肉類の摂取量が多いほど「最大歩行速度」が速い≫ということは、お肉を食べれば筋肉を維持することができやすいということです。
厚生労働省の食事摂取基準によれば『フレイル及びサルコペニアの発症予防を目的とした場合、高齢者(65歳以上)では少なくとも1.0 g/kg体重/日以上のたんぱく質を摂取することが望ましいと考えられる。』(*3)。
体重1㎏あたり1g以上のたんぱく質、つまり体重50㎏なら、たんぱく質50g以上を1日に食べましょう!
4.鶏むね肉を使ったおすすめレシピ
この酷暑では食欲も失せ、あっさりした食事に偏りがちですが、フレイル予防にはお肉が必要です。
この研究では解析していませんが、イミダゾールジペプチドは摂取することで筋力が向上し、中高年の疲労軽減につながることも分かっています。(*1)
そこで、ニッポンハム中央研究所のイミダLaboから鶏むね肉を使ったレシピを紹介します。
☆チキンソテー梅ソースがけ
作り方
① 鶏肉はフォークを使って両面にまんべんなく穴をあける。酒と塩を振りかけてもみ込む。
② フライパンに油を入れ強火で熱し、鶏肉を皮目から入れて焼く。こんがり焼き色がついたら裏返しフタをして弱火で10分程度蒸し焼きにする。
③ 梅干しと酒・みりん・しょうゆ・レモン汁を鍋に入れ混ぜ合わせ、弱火で加熱する。
ふつふつとしてきたら火をとめる。②を器にもり、③ をかける。
詳細は https://www.imida-labo.jp/recipe/main_dish/recipe01/
この暑さで筋力の衰えを感じる機会も気力もありませんが、手をこまねいていると涼しくなった頃にはフレイルに陥っている可能性や、あるいは大腿骨骨折になってしまう可能性もあります。コロナも酷暑もシニア世代をフレイルに陥らせる危険がいっぱいです。
愕然とする秋を迎えないために、こまめに動いて、お肉をいっぱい食べましょう!
謝辞:地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所本川 佳子先生をはじめとするグループと日本ハム株式会社中央研究所の共同研究グループの皆様、ご協力なさったボランティア等全ての皆様に感謝するとともに、この研究の進展・発展を祈念します。
注)
*1:「佐藤三佳子, 前村公彦, 髙畑能久, 森松文毅, 佐藤雄二. 鶏肉抽出物の摂取が中高齢者の筋力に及ぼす影響. 日本食品化学工学会誌, 59, 4, 182-185, 2012.」chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/59/4/59_182/_pdf
*2:「地域在住後期高齢者におけるIADL低下の予測因子としての歩行能力」理学療法ジャーナル 44巻7号 (2010年7月発行)(有料閲覧)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1551101712
*3: 「「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 Ⅲ各論 1エネルギー・栄養素 3─3─1 生活習慣病及びフレイルとの関連」厚生労働省 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586557.pdf
参照論文等
☆ニュースリリース「~肉類を多く摂取している高齢者は、最大歩行速度が速い~肉類摂取が高齢期のフレイル予防の栄養ケアとして有効である可能性が明らかに」日本ハム株式会社 https://www.nipponham.co.jp/news/2023/20230420/
☆「アミノ酸スコアとは。「アミノ酸スコア100」の意味とスコアの高い食材│管理栄養士の食トレ学 (1/2)」https://melos.media/wellness/60448/
☆「地域在住高齢者の肉類摂取量とフレイル関連因子に関する横断的検討」日本サルコペニア・フレイル学会誌 2023/6 Vol.7 No.1 112-115頁
☆地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センターお達者研究 https://square.umin.ac.jp/otassha/
☆プレスリリース「肉類摂取が高齢期のフレイル予防の栄養ケアとして 有効である可能性」地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所 https://www.tmghig.jp/research/release/2023/0420.html
☆「イミダゾールジペプチドのすごい効果とは。中高年の疲れにも抜群の効き目」ニッポンハムミライヘルスLab https://lab.nipponham.co.jp/imida/47
☆「イミダゾールジペプチドに関する総合情報サイト イミダLabo」ニッポンハム中央研究所 https://www.imida-labo.jp/recipe/
☆一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会 http://jssf.umin.jp/index.html
以上