財布盗難騒動は、同じ財布を8個買えと教えてくれる本『認知症の私から見える社会』を紹介します!
自動車ディーラーでトップセールスマンとして活躍していた丹野智文氏は、39歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。診断後、運転免許証を返納し、営業職から事務職へ異動して働き続け、さらに認知症への理解を広める活動を始めます。丹野氏の体験談と、同じ認知症の方々から丹野氏が伺った話が満載の本を紹介します。
『認知症の私から見える社会』丹野智文(たんの・ともふみ)著、講談社+α新書、2021年9月発刊、講談社、定価800円+税、ISBN978-4-06-525042-6
サイズは新書判、ページは160ページ。図解やイラストはありませんが、読みやすいです。内容は六章に分かれ、認知症当事者として認知症に対する社会の偏見や待遇、より楽しく生きるための希望や工夫がまとめられています。
第一章は「認知症の人たちの言葉から」と題して、彼が同じ認知症の方々から伺った苦しみや悲しみの言葉がつづられています。
小見出しの≪やることなすこと危ないと言われる≫とか、≪『忘れたの?』『さっきも言ったでしょ』『また』これらの言葉がいちばん嫌な言葉≫は、グサグサと心に突き刺さります。
第二章「認知症の人の目の前にある「現実」」では、精神科病院にご家族の都合で入院させられ数か月後に亡くなられた仲間の話や、認知症カフェが認知症患者を抱える家族が辛さを分かち合う場所になっている話などが、丹野氏の視点から語られます。
第三章「「やさしさ」という勘違い」では、家族や周囲の人の「やさしさ」(善意)が患者さんを苦しめ、家族や周囲の人の「不安」や「心配」が行動を制限させ、それが認知症を患う方のストレスに繋がっているエピソードが紹介されます。認知症に良いとされる脳トレ、ドリル、体操などあらゆることをさせられるとか、グルテンフリーにすると認知症が治ると聞くと、小麦が悪いとパンやピザなど小麦が入った料理を食べさせて貰えなくなるなど・・・
第五章「工夫することは生きること」、この章の全27ページを読むだけでも価値があります!2013年に丹野氏が発症して以来の経験や工夫が、目的別にまとめられています。
- 忘れることに備える工夫
- 持ち物がわからなくなることを防ぐ工夫
- 手続きをしやすくするための工夫
- お出かけしやすくなる工夫
- 外出を楽しむための工夫
- 予定を間違えないための工夫
- 日課を続けるための工夫
- 時間を知るための工夫
- 置き忘れをなくす工夫・物をなくさないための工夫
- 安心して暮らすための工夫・道具を使うための工夫
- タブレットやスマートフォンを使用した工夫
- 買い物をするときの工夫
- ITという大きな武器
この章で、物盗られ妄想の症状に困っていたご家族に丹野氏が同じ財布を8個購入することを勧めたエピソードが語られます。1個を認知症のご家族にプレゼントして使っていただき、「盗られた」と言い出した時に予備の同じ財布を差し出すことで、妄想の症状が落ち着いたそうです。
またすべての方が利用できる方法ではありませんが、丹野氏は服薬や点眼薬の時間に携帯電話のアラームが鳴るようにセットし、文字で「〇〇の薬を飲むんだよ~」と画面表示されるように入力なさっているそうです。
スマートフォンに音声入力で自分の毎日のスケジュールを入力し、読みあげアプリでスケジュールを教えてもらう方法は、今から慣れておけば万が一私が認知症になった時にも便利です。LINE電話のビデオ通話機能を使って、迷子になった時にスマホで周囲の景色を映して助けを求める方法は、当事者ならではの着眼と感じます。
丹野氏は、「はじめに」の章で『今回、認知症当事者としての想いを書きました。』(7ページより引用)と述べていらっしゃいます。その通りで、80代の父が認知症を発症し他界するまでの私の体験と若年性アルツハイマー型認知症を39歳で発症なさった丹野氏の体験では、嚙み合わない部分が多いです。
すでにスマートフォンもパソコンも使いこなす技術を備えていた、今年48歳の丹野氏と80代でガラケーすらも操作できなかった父。また母も、すでに30年以上もリュウマチを患っており、父の認知症を楽しむ気力も体力も余裕も無い状況でした。丹野氏のご意見は、家族にいろいろ求めすぎると感じます。
それでも、当事者の想いを聞きたいと思います。無意識のうちに無作法を重ねて、認知症で苦しんでいる家族を傷つけたくないから、当事者の想いを真摯に伺いたいと考えます。
さらに、第五章に掲載されている工夫は本当に簡単で役立つ、価値あるアイデアたちです!ご興味があれば、ご覧ください。
☆認知症の私から見える社会 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000355921
☆おれんじドア -ご本人のためのもの忘れ総合相談窓口-(おれんじドア実行委員会代表 丹野智文)https://miyagininntishou.jimdofree.com/%E3%81%8A%E3%82%8C%E3%82%93%E3%81%98%E3%83%89%E3%82%A2/
以上