海藻や大豆などの水溶性食物繊維を多く摂っていると、認知症の発症リスクが低下することが判明!
筑波大学の山岸 良匡教授らの研究グループは、食物繊維の摂取が認知症予防に有益かどうか、3,739人の日本人を対象に調査しました。その結果、食物繊維の摂取、特に水溶性食物繊維は、一般的な日本人の認知症発症リスクを低下させると判明!この論文を、分かりやすく紹介します。
1.食物繊維の働きと認知機能の関係
食物繊維は、小腸の消化酵素の影響を受けずに大腸に到達し、大腸の細菌叢に影響を与えると考えられています。食物繊維は、腸の働きを良くしたり、糖質の吸収をゆるやかにする等の健康上のメリットをもたらすだけでなく、認知症の発症に関して脳腸相互作用が注目されています。
脳腸相互作用とは、脳や脊髄が消化に携わる小腸・大腸とお互いに影響し合うという考え方で、腸内細菌叢が脳の変化や認知機能に影響を与えることが動物実験でわかっています。
そこで研究グループは、食物繊維の摂取量とその後の認知症の発症リスクとの関連を調べた大規模な研究を行いました。
2.調査の方法
秋田・茨城・大阪の3地域に住む40〜69歳の合計9992人の住民の中から、1985~1999年の健康診断時に実施した栄養調査に参加した40~64歳の3,739人を対象に、1999~2020年まで最大21年間にわたって認知症の発症を確認するために追跡調査を行いました。
栄養調査では、訓練を受けた栄養士が1人1人にインタビューで24時間前に参加者が何をどれだけ食べたかを尋ね、消費された食品と各栄養素(総繊維、可溶性繊維、不溶性繊維を含む)の摂取量などを割り出しました。
同時に、身長・体重・血圧・飲酒や喫煙の状況や数量、糖尿病やコレステロール等の服薬の有無、および脳卒中の病歴も調査されました。
3.結果
- 女性は、男性よりも総繊維の消費量が多い
- 血圧は、総繊維摂取量と逆相関にあり、血圧が高くなると総繊維摂取量は反対に減少する
- 水溶性食物繊維の摂取量とジャガイモの摂取量が増えると、明白に認知症の発症リスクが低下
- 野菜や果物の摂取量と認知症の発症リスクに、関係は認められない
4.注意点
- 食物繊維が認知症のリスクを減らすメカニズムは、この研究では分かりません。ただ、動物実験では、食物繊維がアルツハイマー病の病状の原因となる神経炎症を改善することが示されています。
- 食物繊維の多い食事は食事摂取量の多様性を反映している可能性があります。つまり、経済的状況が認知症の発症リスクに影響を与える可能性もあります。
- この研究は、参加者が追跡調査開始の40〜64歳前、そしておそらくほとんどの認知症症例の発症前の食物繊維摂取量との関連に焦点を合わせていることに注意する必要があります。
5.結論
食物繊維、特に水溶性繊維の食事摂取は、日本人の認知症発症リスクを低下させる
謝辞:筑波大学医学医療系・山岸 良匡教授、共同研究に関わったすべての研究者のみならず、患者さんを含むボランティアの方々、ご協力なさった全ての皆様に感謝するとともに、この認知症予防研究の向上・発展を祈念します。
☆Dietary fiber intake and risk of incident disabling dementia: the Circulatory Risk in Communities Study https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1028415X.2022.2027592?scroll=top&needAccess=true
☆筑波大学医学医療系社会健康医学研究室 https://www.md.tsukuba.ac.jp/community-med/publicmd/
☆筑波大学ヘルスサービス開発研究センター https://hsrdc.md.tsukuba.ac.jp/
以上