歯が少ないと転びやすく、歯周病は心筋梗塞や脳梗塞のリスクを上げ、糖尿病を悪化させる!
前回(12月9日)に引き続き、摂食・嚥下能力の低下や歯周病が引き起こす恐ろしい影響について説明します。忘れがちですが、足腰よりも早く老化が始まる「噛む力や飲み込む力」と口腔ケアの重要性をお伝えします。
『介護の現場で使える! 口のトラブル解決BOOK』監修:一般社団法人日本訪問歯科協会、2022年10月発行、発行所:現代書林、定価1,300円+税、ISBN978-4-7745-1956-2 (この本を参考にして、一部を『』で引用。詳細は本をご一読ください。)
1.歯が少ないと転びやすく、歯を1本失うごとに骨折リスクが1.06倍上昇
神奈川歯科大学の山本龍生先生の研究グループは、過去1年間に転倒経験のない65歳以上の1,763人を調査。その結果は以下の通りです。
*歯が19本以下で入れ歯を使っていない人は、歯が20本以上ある人に比べ、3年後の転倒リスクが2.5倍高い
*歯が19本以下で入れ歯を使用している人の3年後の転倒リスクは1.36倍で、歯が20本以上ある人と転倒リスクはかわらない。
結論として、歯が少なく入れ歯を正しく使わない人ほど転び易いです。
また、50歳以上の日本の男性歯科医師9,992人を平均6年間追跡調査し、歯の本数と大腿骨付近の骨折との関係を調査。その結果は、以下の通りになりました。
*歯が1~13本の人は、歯が14~28本の人よりも骨折リスクが4.1倍高い
*歯が0本の人は、歯が14~28本の人よりも骨折リスクが4.5倍高い
*歯を1本失うごとに骨折リスクが、1.06倍高くなる
つまり、歯の本数が少なければ少ないほど、大腿骨骨折をし易くなります。
さらに、71歳の348人を8年間追跡調査した研究によると、歯の喪失や入れ歯の不使用で歯の嚙み合わせが無くなると、脚力や体のバランス機能の低下に繋がることが判明しています。
このように、一見無関係の転倒や骨折に、歯の本数や嚙み合わせが大きく影響を及ぼしています。転倒予防にも口腔ケアは重要です。
幸いなことにすでに歯をかなり失っていたとしても、入れ歯を正しく使えば、転倒リスクを下げることができます。歯周病とこれ以上歯を失うことを防ぐために、やはり口腔ケアが重要です。(日本転倒予防学会誌 Vol.5 No.1 「歯科から考える転倒予防」山本龍生 より要点を抜粋)
2.歯周病があると心筋梗塞や脳梗塞のリスクが上昇し、糖尿病が悪化しやすい!
日本臨床歯周病学会によると、歯周病は30歳以上の成人の約80%が罹っているそうです。あなたは歯周病をご存じですか?
『歯周病とは、この歯垢の中の細菌によって歯肉に炎症をひき起こし、やがては歯を支えている骨を溶かしていく病気のことで、結果的に歯を失う原因となります。』(日本臨床歯周病学会のホームページより引用)
歯垢の中の悪玉菌が、歯肉から体内に侵入しようと攻撃するので歯肉から出血や腫れなど炎症が起こります。白血球が体を守るために戦いますが、歯肉の出血を放置していると悪玉菌が歯周組織に入り込み炎症が続きます。
この炎症によって出てくる毒性物質が、歯肉の血管から全身に巡り、病気を引き起こしたり、悪化させます。歯周病の炎症による悪影響は以下の通りです。
*インスリンの働きを悪くさせ、糖尿病を悪化させる
*血管の動脈硬化を促進するため、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしやすくなる
*気管支から肺に侵入し、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなる
*歯周病菌の中の或るたんぱく質分解酵素は、アルツハイマー病を悪化させる可能性が高い
*歯周病の人は、歯周病でない人に比べ、2.8倍脳梗塞になり易い
*閉経後の女性は、エストロゲンの減少により歯周病に罹りやすく、歯周病が広がりやすい
*歯周病菌により、関節炎や糸球体腎炎(腎機能が低下する病気)を発症することがある
*この歯周病による慢性炎症が、体の老化を促進するという論文もある
歯周病は、このように全身に悪影響を及ぼします。毎日の正しい歯磨きと適切で早期の治療が必要です。(日本臨床歯周病学会のホームページ「歯周病について」より要点を抜粋)
3.「ドライマウス」と「口臭」がひどい場合は、お口の老化も疑いましょう!
「ドライマウス」とは、唾液の分泌量が減って口の中が乾く症状のことです。原因には、以下があります。
*薬の副作用(一部の風邪薬、抗ヒスタミン剤、血圧降下剤、抗うつ剤など)
*病気(唾液腺の病気、シューグレン症候群、糖尿病や腎臓病など)
*加齢(唾液腺の萎縮による唾液の減少、噛む筋肉の衰えによる唾液の減少)
*ストレス(緊張や精神的ストレスなど)
*口呼吸(花粉症や風邪などの鼻づまり)
*飲酒
*喫煙 等
ドライマウスを放置すると、『味がわかりにくい(味覚障害)、食べにくい(摂食障害)、話しにくい(発音障害)などさまざまな症状が現れ、ひどい場合は舌のひび割れや痛みも生じます。
加齢とともに唾液が減るのはある程度仕方ないことですが、食前に唾液腺マッサージを行なって唾液の分泌を促したり、口腔ケアで清潔を保ち、むし歯菌や歯周病菌が増殖しないようにすることで、ドライマウスによる口のトラブルを防ぐことができます。』(P33より一部を引用)
次に「口臭」の原因は大別して4つです。
a. 口の中が原因の場合
☆歯周病
☆むし歯でできた空洞で食べカスが腐敗して悪臭を放つ
☆歯磨き不良による、歯垢や食べカスや舌苔によるもの
☆唾液の減少によるもの
b. 全身の病気が原因の場合(肺がん、胃がん、咽頭がん、糖尿病、肝硬変、肝臓がん、トリメチルアミン尿症など)
c. ニンニク・ニラ・ネギや酒・たばこが体内に取り込まれ、肺から臭い成分が吐き出される場合
d. 起床時や空腹時に臭う生理的口臭の場合
このように、c.の食品等の臭い以外は、口腔や全身のトラブルの可能性もあります。舌苔の有無やむし歯の有無、歯茎は腫れていないか?入れ歯は不潔になっていないか?などを確かめて、当てはまれば口腔ケアを助けて差し上げましょう。口腔トラブルでなければ、かかりつけ医に相談なさってください。
口臭の改善は、ご本人の健康維持のみならず、介護をなさるあなたのストレス軽減効果も高いです!
4.口腔ケアの体操やマッサージ動画を紹介します
日本訪問歯科協会の口腔ケア動画は、住所とメールアドレスの登録が必要なので、YouTubeから探しました。だいたい3~5分の動画です。内容は一緒でも、表現方法が違うので、お好きな動画を見つけてください。
1.嚥下体操
☆体操で”誤嚥予防”-3分でできる嚥下体操講座 |世の中の役に立つ近大公開講座 vol.1 時間:3:54 https://www.youtube.com/watch?v=YtZCeRL1nS8
☆誤嚥性肺炎予防!飲み込む力UPトレーニング(健康カプセル!ゲンキの時間) CBC公式チャンネル 時間:7:37 https://www.youtube.com/watch?v=WPiXXzNqJt4
☆のど上げ体操 嚥下トレーニング協会 時間:6:36 http://www.enge.or.jp/
2.唾液腺マッサージ
☆健口体操5「だ液腺マッサージ」江戸川区公式チャンネル 時間:2:30 https://www.youtube.com/watch?v=nPUHXHfXzoM
☆正しい唾液腺のマッサージできてますか?【高齢者が簡単に取り組めるセルフトレーニング】日本通所ケア研究会 時間:1:35 https://www.youtube.com/watch?v=A_xx0yB-H7s
3.食事を楽しむための筋力を保つ体操
☆健口体操フルバージョン 江戸川区公式チャンネル (内容:ういうい体操、あいうえお体操、パタカラ体操、ベロ体操、唾液腺マッサージ)時間:11:36 https://www.youtube.com/watch?v=ZOWyRpwdVYo
以上
☆一般社団法人 日本訪問歯科協会 https://www.houmonshika.org/
☆現代書林 「介護の現場で使える! 口のトラブル解決BOOK」http://www.gendaishorin.co.jp/book/b610475.html
☆日本転倒予防学会誌 Vol.5 No.1 2018 「歯科から考える転倒予防」山本龍生 神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔科学講座社会歯科学分野 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jstage.jst.go.jp/article/tentouyobou/5/1/5_23/_pdf/-char/ja
☆特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会のホームページ「歯周病について」https://www.jacp.net/perio/about/
以上