在宅介護では主な介護者の65%は女性で、週に9時間以上介護する女性は、狭心症や心筋梗塞リスクが2 倍に上昇します!
2019年の国民生活基礎調査の結果から、在宅介護を主に担っているのは誰なのかを、最初にお知らせします。次に、日本では見つからなかったアメリカの「Family Caregiver Alliance」から「介護が女性の健康に及ぼす影響」についてご報告します。
1.日本では主な介護者の65%が女性!
*要介護者と同居の主な介護者との続き柄は?
配偶者 23.8%
子 20.7%
子の配偶者 7.5%
父母 0.6%
親族 1.7%
*同居の主な介護者の年齢は?
主な介護者が女性の場合
60代 31.8%
70代 29.4%
50代 20.1%
80歳以上 12.6%
40代 5.3%
40歳未満 0.9%
同居の主な介護者を占める「配偶者」は、つまり妻や嫁の立場の女性です。50代から80歳未満までは常に女性が在宅介護を担っていることが上の数字から分かります。
*要介護者の年齢別にみた同居の主な介護者の続き柄
要介護者の年齢 介護者の続き柄
男40~64歳 妻66.1%
女40~64歳 夫66.7%
男65~69歳 妻83.3%
女65~69歳 夫75.2%
男70~74歳 妻87.9%
女70~74歳 夫75.6%
男75歳以上 妻70.0%,子20.4%
女75歳以上 夫19.2%,子56.9%,子の配偶者20.4%
この数字には驚きました。女性が75歳以上の場合、老老介護ではなく子どもや子どもの配偶者が主な介護者です。おそらく夫はもう他界しているか、介護できない状況ということでしょう。
女性は50代から在宅介護を担い続け、75歳以上で介護が必要になると子どもやその配偶者のお世話になっている姿が浮かび上がります。
2.介護程度が高くなるにつれて増える介護負担
*要介護者の介護度別にみた介護の負担量
介護度 最も多い介護負担量
要介護1 必要な時に手をかす程度61.2%
要介護2 必要な時に手をかす程度50.2%
要介護3 ほとんど終日32.5% 必要な時に手をかす程度27.7%
要介護4 ほとんど終日45.8% 2-3時間程度21.7%
要介護5 ほとんど終日56.7% 半日程度12.8%
以前にも「在宅介護か施設入居か?介護の限界を見極めるべきポイント6点とは?」でお伝えしたように、要介護3から介護の負担量がグンと増加することが分かります。
*「ほとんど終日」介護する同居の介護者の性別と続き柄
介護者の続き柄と性別
配偶者(女性) 40.9%
子(女性) 19.8%
配偶者(男性) 14.0%
子(男性) 11.8%
子の配偶者(女性) 7.3%
親族(女性) 4.7%
親族(男性) 0.4%
「ほとんど終日」の介護に携わっている72.7%が女性です。
3.介護が女性の健康に及ぼす影響は?
日本では「介護が女性の健康に及ぼす影響」を調べた調査はありませんでした。それで、アメリカのPhyllis Mutschler 博士による「Women and Caregiving: Facts and Figures」からショッキングな内容をお知らせします。
*病気や障害のある配偶者の介護を担う中年以上の女性は、介護を担わない同年代の女性に比べ、うつや不安症状に苦しむ可能性が約6倍ある。(注1)
*同じ研究で、病気の親を介護した女性は、介護をしていない女性に比べ、うつや不安症状に苦しむ可能性が2倍高い。(注1)
*18~39歳の女性介護者の5人に1人は、生活の中でほぼ常にストレスがあると回答。これは男性介護者の約2倍。(注2)
*ある研究では、配偶者の介護に週に36時間以上費やした女性は、うつ病リスクが顕著に増加。研究者らは、精神的健康へ悪影響の可能性が急増する、時間的な限界点が存在する可能性があると結論付けた。(注3)
*女性介護者の3分の1以上が、自分自身の健康状態の悪化に苦しみながらも、集中的かつ継続的な介護続けている。(注4)
*2003 年の研究では、女性介護者の4人に1人以上が健康状態は「まあまあ」または「悪い」だが、介護のない女性では同じ健康状態は12%に過ぎない。(注5)
*冠状動脈性心疾患(CHD)は、介護に携わる身体的危険因子の 1 つです。病気や障害のある配偶者の介護に週に 9 時間以上費やす女性は、冠状動脈性心疾患(狭心症や心筋梗塞)リスクが2 倍。(注6)
*その他に、女性介護者には血圧の上昇や高血圧の発症リスク、免疫機能の低下、死亡リスクの増加が認められます。(注6)
このように在宅介護を担うのは女性という体制になっており、介護に携わらずを得ない女性には肉体的・精神的負担や病気の危険因子がつきまとっています。
あなたは配偶者や親の介護に終日追われる生活を送った末に、狭心症や心筋梗塞で倒れたいですか?ご自身の不調やうつ気味を無視して介護なさっていませんか?
どうか我慢や無理を重ねないで、あらゆる介護支援を利用なさってください。助けを求めて下さい!在宅介護の限界を見極めて、共倒れにならないように注意なさってください。
参考文献
(注1)Press Release (2002, August). Reverberations of family illness: A longitudinal assessment of informal caregiving and mental health status in the nurses’ health study. American Journal of Public Health.
(注2)MetLife Mature Market Institute, National Alliance for Caregiving & University of Pittsburgh Institute on Aging (2010). The MetLife Study of Working Caregivers and Employer Health Care Costs: New Insights and Innovations for Reducing Health Care Costs for Employers.
(注3)Press Release (2002, August). Reverberations of family illness: A longitudinal assessment of informal caregiving and mental health status in the nurses’ health study. American Journal of Public Health
(注4)Navaie-Waliser, M., Feldman, P. H., Gould, D. A., Levine, C. L., Kuerbis A. N., & Donelan, K. (2002). When the caregiver needs care: The plight of vulnerable caregivers. American Journal of Public Health, 92(3), 409–413.
(注5)Austrailian Bureau of Statistics (2004) Disability, Aging and Carers Australia: Summary of Findings.
(注6)Lee, S. L., Colditz, G. A., Berkman, L. F., & Kawachi, I. (2003). Caregiving and risk of coronary heart disease in U.S. women: A prospective study. American Journal of Preventive Medicine, 24(2), 113–119.
☆厚生労働省 国民生活基礎調査 2019(令和元)年調査結果 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h29.pdf
☆Family Caregiver Alliance「Women and Caregiving: Facts and Figures」https://www.caregiver.org/resource/women-and-caregiving-facts-and-figures/
以上