同じ話を繰り返すメカニズムが分かる『老人の取扱説明書』
昭和大学医学部を卒業後、眼科専門医として10万人以上のご高齢の方々を診察し、接してきた医学博士平松類(ひらまつ・るい)氏が、医学的にご高齢の方々の困った行動を解説した素晴らしい本を紹介します。
『老人の取扱説明書』平松 類 著、SB新書 SBクリエイティブ株式会社、2017年発行
新書サイズでわずか220ページの本ですが、当惑したり、辟易していた行動の理由と対処法が分かって、驚きと納得の1冊です。
たとえば、赤信号の横断歩道を平気で渡ったり、赤信号に変わってしまっても平然と歩き続けるご高齢の方を、ときどきお見掛けします。あの行動の背景には、老化があると平松先生は解説してくださいます。主な原因は3つ。
- 瞼が下がってくるし、腰も曲がっているから、信号機がよく見えない
- 転びやすいので足元ばかり見ている
- 日本の信号機は高齢者が歩くスピードで渡り切れないようにつくられている(3ページより引用)
瞼が下がってくることが原因の1つだなんて考えもしなかったのですが、この本を読んで納得です。さらに素晴らしいことに平松先生は、対処法も提案してくださっています。
横断歩道の距離と信号の時間の設定は、歩く速度毎秒1メートルが基準になっているそうです。そこで、もしもご両親が1秒に1メートル歩けない場合は、横断歩道を渡り切れないので『シルバーカー』の利用を勧めてくださっています。ある研究によると、普通に歩いたり、杖をついて歩くよりも『シルバーカー』を使って歩いた方が歩行スピードが18%も速くなるそうです。
この本は、4章で構成されています。第1章は「老人の困った行動3大ド定番」、第2章は「いじわる」、第3章は「周りが大迷惑」、第4章は「見ていて怖い、心配・・・」として、それぞれ『老人のよくある困った行動』を3つから6つ、合計16の行動が取り上げられています。
最初に『老人のよくある困った行動』の原因を、医学的に分かりやすく解説してくださいます。次に、その老化現象に対応するための対処法が提示され、改善するための簡単トレーニングもトピックによっては提案されています。最後に、『老化の正体』と題して、要点が見開き2ページにまとめられています。
例えばあの「同じ話を何度もする」行動への対処法として、平松先生はこう提案なさっています。
『「繰り返しの記憶」「体を動かした記憶」が頭に残りやすいことを利用すれば、周囲は高齢者が同じ話を何度もするのを防ぐことが可能になる場合もあります。』(48ページより引用)
例えば、1日に何回も連続して同じ話を話して頂き、同じ話をしたという記憶を定着させる方法。また、同じ話をした後は必ず印象に残りやすい行動、例えばドクダミ茶を飲んで頂き、同じ話をしたという記憶を定着させる方法。
この先はぜひ、この『老人の取扱説明書』をご覧ください。
さらに、『老化の正体』と題された要点をまとめたページには、『◎自分がこうならないために』と『◎自分がこうなったら』と題して、予防策と自分でできる対策も載っています。
たとえば、白内障は50代から半数以上の人に発症するとか、55歳を超えると若い人の3倍以上味覚障害が発生するという解説は、わたしたちへの警告となります。そこで、『◎自分がこうならないために』に書いてある対策、例えば『亜鉛を摂るために、牛肉、卵、チーズ、カニなどを食べる』が深くしみ込んできます。
さらに、『図解 老人の取扱説明書』(2018年刊)と『マンガでわかる! 老いた親との上手な付き合い方』(平松 類/つだ ゆみ(著者)、2019年刊)もあるそうです。
何度も繰り返される同じ話に爆発しそうなあなたへ、あなたの心と体の健康のためにも、お勧めします。