新型コロナの影響で、高齢者の筋力が通常の3倍以上も低下、特に女性は全身の筋力低下の可能性が判明!
新型コロナウイルスの影響で、外出制限や自宅待機など身体活動量が著しく減少した3年間でした。その結果、高齢者の歩くなどの能力が通常の3倍以上低下したことが判明。筑波大学大藏研究室によるこの研究結果と、大藏研究室が協力した『おうちでフレイル予防体操』を紹介します。
筑波大学大学院大藏研究室は、茨城県笠間市が毎年実施している体力テストに参加した高齢者(男性107人、女性133人、平均年齢73.2歳)を対象に、2016~2020年のデータを解析。その結果は、以下の通り。
☆複合的な運動能力テスト(Timed Up & Go Test)では、通常の1年間の場合、男性0.05%、女性0.12%機能低下する
☆2019~2020年の複合的な運動能力テスト(Timed Up & Go Test)では、男性で0.7%、女性で0.36%低下した。通常の1年間の加齢変化よりも、歩く等の動作能力が3倍以上低下。
☆男女ともに著しい体力低下が現れたのは、5 m通常歩行時間(歩行能力)と長座体前屈(柔軟性)。
☆女性のみ著しい体力低下がみられたのは、握力(上肢筋力)と48本ペグ移動(手指巧緻性)。
特にご高齢の女性の皆様、握力テストと48本ペグ移動テストの成績悪化は重大な問題を含んでいます。その理由は、下記です。
握力(上肢筋力)テストが意味するものは?:
『握力とは、物を握るときに発揮される力のことで、主に前腕部と上腕部の筋力によって力が発揮されます。上半身の筋力となりますが、握力は全身の総合的な筋力と関連があることが多くの研究で明らかになっています。
握力は難しい動きを必要とせず、短時間で安全に測定することができるため、高齢者の筋力測定に適しているといえます。さらに握力は下肢の筋力やその他多くの部位の筋力と相関関係が高いため、全身の筋力の程度を知るための指標として用いられます。』(*4)
つまり、握力が弱くなった高齢女性は、全身の筋力が著しく衰えている可能性があります。
48本ペグ移動(手指巧緻性)テストが意味するものは?:
『ペグ移動テストは、対象者からみて遠くに置かれた手腕作業検査器の盤にペグを48本挿した状態で、検査器の前に立って正対する。合図とともに左右それぞれの手にペグを1本ずつ持ち、手前に置かれた盤に移す。48本全てのペグを移動し終えるまでの時間を計測する。
ペグ移動は、片手で1本のペグを持ち、両手同時に合計2本のペグを遠位にある盤の穴から近位盤の穴へと正しく移し変える動作を含むことから、目と手の協応および進行順序を意識しながら素早く行うことが必要となる。このような動作を含む上肢機能の総合的評価指標は巧緻性や調整力と呼ばれることが多い。特に巧緻性は、手を正しい方向に動かす機能と、時間調整を正しく行う機能と力加減を適切に行う機能という3つの機能から構成される。このように多くの機能を必要とするペグ移動は認知機能と最も強い相関関係を示した。』(*5)
つまり、48本ペグ移動テストの成績が著しく悪化した高齢女性は、認知機能も著しく悪化している可能性が高いです。
では、どうすれば良いか?運動です。衰えた筋力を甦らせることです。この研究論文を作成なさった筑波大学大藏研究室が協力した『おうちでフレイル予防体操』を紹介します。
☆おうちでフレイル予防―曜日別のフレイル予防体操動画(東京保健生活協同組合ホームページ)https://tokyo-health.coop/news/202005news_01.shtml
曜日別に内容が異なり、10分前後の体操の中にストレッチと筋肉トレーニングと全身運動やバランス運動が含まれています。だから衰えている全身のいろいろな筋力を、呼び覚ませます。また、曜日別は目先が変わって楽しいです。
*月曜日の体操 https://tokyo-health.coop/news/2020news/video/20200620_flail_mon_full.mp4 (再生時間9分27秒)
*火曜日の体操 https://tokyo-health.coop/news/2020news/video/20200620_flail_tue_full.mp4 (再生時間10分17秒)
*水曜日の体操 https://tokyo-health.coop/news/2020news/video/20200620_flail_wed_full.mp4 (再生時間9分17秒)
*木曜日の体操 https://tokyo-health.coop/news/2020news/video/20200620_flail_thu_full.mp4 (再生時間10分10秒)
*金曜日の体操 https://tokyo-health.coop/news/2020news/video/20200620_flail_fri_full.mp4 (再生時間11分7秒)
*土曜日の体操 https://tokyo-health.coop/news/2020news/video/20200620_flail_sat_full.mp4 (再生時間10分11秒)
*日曜日の体操 https://tokyo-health.coop/news/2020news/video/20200620_flail_sun_full.mp4 (再生時間8分34秒)
女性の皆さま、取り返しがつかなくなる前に、少しずつ筋力と元気を取り戻していきましょう!
≪ご参考に≫
Timed Up & Go Testとは:
肘掛のついた椅子にゆったりと腰かけた状態から立ち上がり、3mを心地よい早さで歩き、折り返してから再び深く着座するまでの様子を観察するもの。この機能テストを所要時間で評価したものがTimed Up & Go Test。
Timed Up & Go Testは信頼性が高く、下肢筋力(太ももやふくらはぎの筋力)、バランス,歩行能力、易転倒性(いてんとうせい、転倒しやすい傾向)といった日常生活機能との関連性が高いことが証明されており、高齢者の身体機能評価として広く用いられている。(*1)
5 m通常歩行時間(歩行能力)とは:
通常歩行速度を測る場合は「いつものように歩いてください」と声掛けして実施。振り出した脚(遊脚相)の足部が測定区間始まりの地点を超えた時点から、測定区間終わりの地点を振り出した脚(遊脚相)の足部が超えるまでの所要時間を計測します。
高齢者・要支援・要介護の方の運動器の機能の状況を客観的に把握するために有効で、よく取り組まれる測定項目に含まれる。(*2)
長座体前屈(柔軟性)とは:
長座位体前屈測定の目的は、柔軟性の度合いを知ることです。主に太腿の裏側(ハムストリング)と腰部の柔軟性を評価します。長座位体前屈の成績は、17-18歳までは増加しますが以降加齢に伴って低下。(*3)
*1:一般社団法人日本運動器科学会 「Timed Up & Go Test(TUG)について」https://www.jsmr.org/TUG.html
*2:機能訓練指導員ネットワーク「5m歩行速度(通常・最大) 運動器の機能・体力測定方法」https://kinou-kunren.com/assessment/5mhokou
*3:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイトe-ヘルスネット「長座位体前屈(ちょうざいたいぜんくつ)」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-061.html
*4:公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「高齢者の握力測定」https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tairyoku-kiki/kinryoku.html
*5:「4.体力テストを活用した地域在住高齢者の認知機能スクリーニング評価尺度の提案」平成21年度日本体育協会スポーツ医・科学研究報告Ⅱ 「高齢者の元気長寿支援プログラム開発に関する研究 第1報」chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/studiesreports/2001_2020/H2102.pdf
謝辞:筑波大学大学院人間総合科学研究科体育系の大藏 倫博教授と研究に関わったすべての研究者、ご協力なさった全ての皆様に感謝するとともに、この研究の進展・発展を祈念します。
☆TSUKUBA JOURNAL 「コロナ禍で高齢者の移動動作能力が通常の1年の3倍以上低下」(PODCASTあり)https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20221025140000.html
☆「新型コロナウイルス感染症流行下の高齢者の体力の変化~パフォーマンステストを用いた検討~」大藏 倫博 日本老年医学会雑誌 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/59/4/59_59.491/_article/-char/ja
☆筑波大学 体育系 大藏研究室 https://www.taiiku.tsukuba.ac.jp/~okura/
以上