消化器癌や乳癌などの化学療法で生じた副作用を、漢方薬で改善させた実例を症状別に紹介!
あなた、あるいはあなたの親しい方が、癌治療による副作用で苦しんでいませんか?京都府立医科大学附属病院の外来化学療法センターに通院する患者さんに現れる副作用を漢方薬で改善させた症例(*1)を紹介します。
1.がん薬物療法で生じる副作用の状況
*調査期間:2013年1月~12月
*調査場所:外来化学療法センター(京都府立医科大学附属病院)
*調査対象数:8424人
*年齢:平均67.9歳
*癌の種類:消化器癌(*2) 32.3%
乳癌 20.8%
血液腫瘍(*3) 17.8%
*頻度の高い副作用:
痛み 28.4%
末梢神経障害(*4) 25.0%
湿疹 24.9%
倦怠感(*5) 24.7%
*頻度の低い副作用:
悪心(*6) 4.4%
おう吐 1.0%
*中等度の症状で治療が必要な副作用:
便秘 52.5%
口内炎 39.2%
*中等度の症状で早急な治療が望ましい副作用:
おう吐 16.5%
末梢神経障害 15.8%
このように副作用は幅広く発生し、ささいな症状でも辛く体力を削がれます。これらの副作用を漢方薬で治療した吉田直久先生がたの研究を副作用ごとに分けて紹介します。
2.末梢神経障害の治療に「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)」を投与した症例
手足のしびれは、痺れる箇所に意識が吸い寄せられて一日中痺れのことばかり考えてしまいます。足先がしびれると歩きにくく動かなくなり、筋力低下や食欲不振に繋がります。
*「牛車腎気丸」を投与した人数:29人(男性17人、女性12人)
*年齢:平均60.4歳
*「牛車腎気丸」を投与しなかった人数:44人
*末梢神経障害が重症化した割合:
投与しなかったグループ 34.1%
投与したグループ 6.9%
*「牛車腎気丸」の投与時期:
末梢神経障害の症状発症後の投与でも症状発症前の予防的投与でも、いずれの投与において重症化への悪化が抑えられた。
*「牛車腎気丸」の効果:
4週間以上内服している症例でのみ現れた。
*投与人数を91人に増やした追加研究で判明したこと:
①末梢神経障害が軽減した人は24%
②「牛車腎気丸」の4週間以上投与で効果が期待できる。
③症状発症後・予防投与のいずれでも重症化を10%程度に抑えられる。
④ご高齢の場合やBMI(体格指数)が小さい患者さんでは「牛車腎気丸(*7)」の効果が得られにくい。
3.あらゆる抗がん剤治療で現れた難治性の口内炎を「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)」(*8)で治療した症例
健康な方にはささいな症状に思える口内炎も、なかなか治らないと辛くて、食事も摂れず体重減少や体力低下に繋がってしまいます。
*口内炎の発症率:
入院治療を含めた化学療法 40%
頭頸部の放射線治療などを併用した化学療法 ほぼ100%
*対象人数:22人(男性13人、女性9人)
*平均年齢:67.4歳
*癌の種類:大腸癌 10人
食道癌 3人
膵癌 2人
乳癌 2人
その他 5人
*「半夏瀉心湯」の治療前の口内炎の症状:
軽度の症状だが我慢できる:6人
中程度の症状で治療が必要:15人
中程度の症状で早急な治療が必要:1人
*治療後の口内炎の症状:
症状なし:4人
軽度の症状だが我慢できる:14人
中程度の症状で治療が必要: 4人
中程度の症状で早急な治療が必要:0人
*「半夏瀉心湯」の治療方法:
①半夏瀉心湯1包を口に含み、水30ml程度をさらに含ませて口腔内で30秒程度浸透させる
②もしくは水30mlに半夏瀉心湯1包を溶かして口に含み、口腔内で30秒程度浸透させる
*「半夏瀉心湯」の治療で口内炎が軽減した人:68.2%(22人のうち15人)
*効果が現れる日数:平均3.0日(1~13日)
『早い症例では2回の含嗽で痛みの軽減を認めており、たいへん期待が持てる。』(119頁より引用)
4.肺癌化学療法で生じる全身倦怠感に「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を投与した症例(*9)
倦怠感も健康な方には理解されにくいですが、気分が落ち込み、意欲を失いがちになります。だるさから動かなくなり、食欲不振や筋力低下を招きます。
*対象:栃木県立がんセンターで肺癌化学療法を受けた入院患者31人(80歳以上や重篤な合併症がある場合などを除く)
*調査方法:「補中益気湯」(*10)を投与する・しないを無作為にグループ分けした比較試験
「補中益気湯」を投与したグループ:18人
「補中益気湯」を投与しないグループ:13人
*投与方法:化学療法開始1週以上前より投与を開始し、最終化学療法コース終了後4週以上連続投与、1日3回内服
*効果測定方法:患者さんが自分で記入する健康日記と医師・看護師が記入する症状記録で検討
*健康日記の内容:全身倦怠感の有無・程度、食欲・気分の状況、悪心・嘔吐の有無
*観察期間:治療開始から最終化学療法コース終了後4週まで
*研究で判明したこと:
①「補中益気湯」を投与したグループでは、投与しないグループに比べて倦怠感の発生する頻度が低く、倦怠感も弱かった。
②気分の改善および食欲不振の改善も「補中益気湯」を投与したグループでは現れた。
③消化器症状の現れる頻度は、投与のあり・なしに差がなかった。
④「補中益気湯」による副作用は認められなかった。
手術後の便秘や、化学療法による口内炎や食欲不振、倦怠感、手足のしびれなど副作用から体力が低下し、治療を断念する場合もあります。ここで紹介した論文は2016年と1992年と古いですが、漢方薬が助けになることを証明しています。あなたやあなたの大切な方が、癌治療を続けられるよう祈っています。
謝辞:京都府立医科大学附属病院化学療法部 吉田直久先生をはじめこの研究に携わった先生方、ご協力なさった患者さんや職員の皆さま等全ての皆様に感謝するとともに、漢方薬が高齢者の健康長寿によりいっそう役立ち、癌患者さんや認知症患者さんとご家族のみなさまがより良い時間を過ごせますよう、先生方の益々のご活躍・ご発展を祈念します。
補注
*1:≪特集「漢方療法の最新情報」≫「がん化学療法に伴う副作用に対する漢方薬の有用性」吉田直久、田口哲也、伊藤義人、京都府医大誌 125(2)、115-125頁、2016年
*2: 「消化器がん:消化器がんは食道や胃、大腸、膵臓、肝臓、胆道などの消化器にできるがんの総称です。がんとは悪性腫瘍のことで、完全に予防することができない病気のひとつです。また、体のあらゆる臓器に発生する可能性があるため、さまざまな種類があります。」Medical Note https://medicalnote.jp/diseases/%E6%B6%88%E5%8C%96%E5%99%A8%E3%81%8C%E3%82%93?utm_campaign=%E6%B6%88%E5%8C%96%E5%99%A8%E3%81%8C%E3%82%93&utm_medium=ydd&utm_source=yahoo
*3:「血液腫瘍内科:血液腫瘍性疾患とは白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などのいわゆる「血液のがん」を指します。」 東海大学医学部附属病院 https://www.fuzoku-hosp.tokai.ac.jp/service/ketueki-naika/
*4: 「ニューロパチー(別名・末梢神経障害):ニューロパチー(別名・末梢神経障害)とは、全身に隈なく分布する末梢神経が障害されることにより、手足のしびれや筋力の低下など、さまざまな症状が現れる病気の総称です。
神経系には、中枢神経と末梢神経の2種類があります。中枢神経とは脳と脊髄のことを指し、末梢神経はそこから手足の先まで枝分かれするすべての神経を指します。
末梢神経は、さらに(1)運動神経、(2)感覚神経、(3)自律神経に大別されます。ニューロパチーとは、これらの末梢神経のいずれかが、炎症や代謝異常などにより損なわれる病気です。そのため、歩行が困難になる、冷たさや熱さに敏感になる、腸の調子が悪くなるなど、多様な症状が現れます。」Medical Note https://medicalnote.jp/diseases/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%BC?utm_campaign=%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%BC&utm_medium=ydd&utm_source=yahoo
*5:「倦怠感の正体とは?:倦怠感とは、疲れた感覚が続き、日常生活に支障が出ている状態です。
身体的な疲れを想像しがちですが、精神的な疲労感も倦怠感に該当します。
倦怠感は、心身が疲労のピークを迎えたというサインだといわれています。
より具体的にいえば、脳や体からの「休みなさい」という危険信号として、倦怠感があらわれるのです。
倦怠感の代表的な原因は日常的な疲労・ストレスです。
あるいは、全身疾患が原因で引き起こされることもあります。」健達ねっと 家族の介護と健康を支える学研の情報サイト https://www.mcsg.co.jp/kentatsu/health-care/22248
*6: 「悪心・嘔吐:悪心(おしん)、嘔吐(おうと)はいずれも医学用語です。悪心とは、嘔吐の前に起こるむかつき(吐き気)のことをいいます。嘔吐とは、胃の中にあるものを吐き出すことをいいます。これらは同時に起こることもありますし、悪心のみ、または嘔吐のみがみられることもあります。」健康長寿ネット 公益財団法人長寿科学振興財団 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/oshin-outo.html
*7: 「牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):この薬は、体力が低下した疲れやすく、腰から下が冷えやすい方の、しびれや下肢や腰の痛み、むくみ、排尿障害などに用いられます。
このような状態は、漢方では「腎虚」ととらえられます。「腎(じん)」は、生きるエネルギーである「気(き)」を蓄えるところで、その働きが衰えると、前述のような症状が起きてくるのです。いわば老化にともなう症状で、「腎虚」を改善する「八味地黄丸」や「牛車腎気丸」は高齢者によく用いられます。
高齢者の頻尿(ひんにょう)、特に夜間頻尿をはじめ、腰痛や下肢痛、糖尿病の合併症の神経障害によるしびれなどに使用される。」ツムラ https://www.tsumura.co.jp/kampo/list/detail/107.html
*8: 「半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう):胃腸の不調に広く用いられる漢方薬です。みぞおちのつかえ感があり、吐き気や食欲不振、おなかがゴロゴロ鳴って下痢がちといった方に適した処方で、急性・慢性の胃腸炎、消化不良、胃下垂、下痢、軟便、二日酔い、胸やけ、口内炎などに使われます。処方名にある「瀉心」とは、「みぞおち(心下)のつかえ感を去る」と定義されているほか、「心のわだかまりを取る」という意味ももちます。したがって、ストレス性の胃腸症状に効果的とされています。」ツムラ https://www.tsumurakampo.jp/product/014/
*9:「進行肺癌患者の全身倦怠感に対する補中益気湯の有用性」栃木県立がんセンター呼吸器科 森 清志、斉藤芳国、審永慶晤 Medical and Pharmaceutical Society for WAKAN-YAKU chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F10946452&contentNo=1
*10:「補中益気湯(ほちゅうえっきとう):胃腸の働きを整えて、食欲不振やだるさを改善する薬です。過労や暑さで胃腸の働きが衰えると食欲が落ち、栄養分をきちんと消化・吸収できなくなります。身体を動かすエネルギーとされる「気」は食べ物の栄養分から生まれるため、胃腸の機能が低下すると、「気」が十分に産生できなくなり、だるい、疲れやすい、やる気が出ない、日中眠くなるといったさまざまな症状が現れます。補中益気湯は胃腸の働きを高めて食べ物から栄養分を十分吸収できるようにすることで「気」が失われるのを防ぎ、身体のエネルギーを増やします。」ツムラ https://www.tsumurakampo.jp/product/041/
☆この症例報告の先生方の病院(2016年時点)
◎吉田直久先生:京都府立医科大学附属病院化学療法部、京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学
◎田口哲也先生:京都府立医科大学附属病院化学療法部、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌乳腺外科学
◎伊藤義人先生:京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学
以上