年の瀬だから「未病チェックシート」で身体の状態を確認して、より良い新年を迎えよう!
慶応義塾大学による3万件を超える漢方診断の症例分析をベースとし、平成25年度に神奈川県が作成し、慶應義塾大学の渡辺賢治教授が監修した「未病チェックシート」を紹介します。ほんの3分、全23問の問診項目に回答すれば、あなたのタイプが分かります。さらに、タイプ別の薬膳料理メニューと漢方医学の考え方も簡単にご紹介します。
1.3分でわかる「未病チェックシート」とタイプ別の薬膳料理メニュー
☆監修:慶應義塾大学 渡辺賢治教授 「未病チェックシート」https://me-byo.com/ (神奈川県健康医療局 保健医療部 健康増進課)
最後まで回答すると、「判定結果、あなたのタイプは××です」と表示されます。「体の傾向」がグラフで表示され、「他にもあてはまるタイプ」が緑色で目立つように表されます。
「解説を見る」をクリックすると、このように表示されます。
解説 「気虚(ききょ)」気虚(ききょ)とは、気が不足している病態のことで、気を補う事や気を消耗しすぎない事が重要です。休息をとり胃腸の働きを助ける食材を摂って気の充足を心がけましょう。おすすめ食材:ブリ、鯛、米、鶏肉、牛肉、れんこん
☆「薬膳料理のつくりかた」https://www.pref.kanagawa.jp/docs/y2w/kenseipj/yakuzen.html
このページでは、判定結果で表示される8タイプに対応して作る薬膳料理の作り方が紹介されています。
たとえば、「気虚証」タイプの方に合わせた薬膳メニューは「山芋と鶏肉の甘辛炒め丼」です。醤油とはちみつとコチュジャンの味付けがとても美味しそうです!レシピブックをダウンロードできるので、是非お試しください。
2.漢方医学の3大要素「気」・「血」・「津液(水)」って何?
ここからは、漢方医学の考え方を『症例でわかる東洋医学 読体術』(*1)を参考に、分かりやすく解説します。
古代中国では、自然を二元論で理解し、天と地、寒と熱、陰と陽といった対立する2つがバランスよく調和することが最善と考えました。この考え方を受けて漢方医学でも、人のカラダの中で「陰」と「陽」のバランスが乱れると病気になると考えます。
病状も「陰」と「陽」に分けて考え、陽の要素の強いものを「陽証」、陰の要素の強いものを「陰証」と呼びます。
①「気」って何?
「気」は生命活動を支える目に見えないエネルギーのような存在で、漢方ではとても重要な概念の1つです。西洋医学にはありませんが、「気」は精神活動を含めた機能的活動を統括する役割を担っています。
そのため、「気」が不足すると疲れやすくなり、「気」が過剰になるとイライラや不眠など興奮状態が目立ちます。
「気」は生命活動のエネルギー源であると同時に、身体を制御するプログラムの役割も果たします。
②「気」はどうやって作られる?
持って生まれた生命力の素である「先天(せんてん)の気」に、「脾(ひ)」の働きで飲食物から取り込む「水穀(すいこく)の気」が加わり、「肺」の働きで大気から取り込む「清気(せいき)」が結び付いてその人の「気」が出来上がります。「脾」や「肺」が取り込む「気」を「後天(こうてん)の気」と呼び、漢方では食事や生活環境も生命力に関わると考えます。
③「血(けつ)」って何?
「血」は、身体の働きを物質から支える要素で西洋医学の「血液」と似た概念ですが、血液といった物質を意味するだけではありません。血液を提供することで維持される皮膚・筋肉・精神活動・知覚感覚まで含んだものが「血」です。
「血」は正常の状態では、「気」の働きでその量が保たれ、全身を巡り、身体に必要な栄養をもたらし、身体・臓器を形作ります。
「血」を十分に受け取ると、筋肉は太く、髪は太く長くなり、爪や皮膚が新しくなり、目が見え、耳が聞こえ、鼻が利き、口が働き、月経機能が整います。さらに「血」によって心が豊かになり、興奮を鎮めたり、冷静な判断を下したり、ゆったりとした状態を維持し、頭脳が明晰となり、睡眠や精神状態を安定させます。
「血」の中に「気」を納め、「血」から「気」を供給されて体が「熱」を生み出すので、「血」は「熱」を運ぶ器としての役目も持っています。
④「津液(しんえき)」って何?
「津液」は、「水」と表現されることもあるように身体を潤す働きに対する概念です。けれど、単なる水の作用を超えて身体のいろいろな構造物を支えたり、体の柔軟性や関節のなめらかな動き、ゆったりとした状態などを提供する働きをあります。
「津液」は、「気」「血」と共に身体の働きを支えている3要素の1つで身体を潤したり、興奮を鎮めたりします。髪に艶を与え、皮膚をうるおし、粘膜を湿らせます。内臓に潤いを与え、脳や骨に栄養を与え、関節を滑らかに動かします。
この「津液」が活性化する時間帯が夕方から夜です。十分な睡眠をとることが「津液」の働きを充実させ、身体の興奮を鎮めることに繋がります。
「津」は「気」の媒体、「液」は「血」の媒体で、それぞれ「天空の気」や「地の気」を含んで、「気」や「血」の機能を支えます。
⑤「熱」って何?
「熱」は、「気」と同じように目に見えない存在で、元気や活動の状態と関係します。
「気」は元気や活動の状態そのものを意味する働きで、「熱」は元気や活動状態を底から支えて活動の程度を左右する存在です。
「熱」はただ身体を熱くするためだけではなく、「熱」の存在があるから「気」が働けるのです。「熱」は、胃腸の働き・心臓の働き・免疫力・脳の働き・筋肉の働きなど全身のいろいろな機能を支えています。
そのため「熱」の過剰や不足は、「気」をはじめとして身体の全ての循環に影響を及ぼします。
⑥「熱」ってどうやって作られるの?
「熱」を作り出す源は、まず食事。次は、心拍動です。心臓が拍動するたびに大量の「熱」が血液にのって体中に配られます。また、体中の筋肉の収縮によっても「熱」が作られるので、毎日の運動量が「熱」の量に影響します。
最後に、ドキドキやワクワクの気分が「熱」を作ります。明るく楽しい気分が、「熱」を生みだします。
⑦「火」って何?
「熱」が過剰になると「火」になります。抑うつ感・イライラ・怒りなどを常に抱えていると「熱」が過剰となり、いろいろな臓器に破壊的な症状をつくる「火」となります。これは、漢方特有の概念です。
「火」にあおられて「血」が暴走すると出血し、肺に移ると、激しい咳や喀血を引き起こします。「火」が胃に移ると胸やけや痛みを起こす胃潰瘍になり、心臓や脳に移ると不眠症に始まり、心筋梗塞や脳出血やクモ膜下出血などを引き起こします。
「火」と飲みすぎや食べすぎで過剰となった「津液」が結び付くと、「湿熱」と呼ばれ、身体に悪さをします。
3.漢方医学の「五臓(ごぞう)」って何?
人間の身体には複数の臓器があり、胸のあばら骨に囲まれた部分とお腹に存在する臓器を「臓腑(ぞうふ)」といいます。中身が詰まっている臓器が「五臓」で、「肝」・「心」・「脾」・「肺」・「腎」です。管のような内部が空洞の臓器が「六腑」で、「胆」・「小腸」・「胃」・「大腸」・「膀胱」・「三焦」です。ただし、解剖学には「三焦」に相当する臓器はありません。「漢方」にある概念です。
①「腎」って何?
「気」の土台となる「熱」を蓄える場所が「腎」です。西洋医学の腎臓とは違い、「腎」は親から受け継ぐ生命力を蓄え、成長・発育・生殖に関わります。「腎」の充実につれて幼児期・思春期・壮年期へと成長し、「腎」の衰えと共に、老年期を迎えます。
「腎」は、性機能や生殖機能の他、髪の毛や・骨・歯・脳脊髄・排泄・耳・腰・背筋・下半身などと深いつながりがあります。そのため皮膚のたるみや背中が丸まり、前かがみの姿勢が、「腎」が衰えた特徴です。
「未病チェックシート」の「下焦の虚(げしょうのきょ)」は、「腎」が衰えた病態のことです。
②「脾」ってどんな働きをするの?
胃腸の働きと深く関係し、生命力の素となる「後天の気」を補充します。他にも以下の働きがあり、西洋医学の「脾臓」とは全く違う概念です。
*「気」や「血」や「津液」を作り出す
*これらを「肺」まで持ち上げ、全身に配る
*筋肉を太くしたり、手足の働きを維持する
*血液が血管から漏れだすのを防ぐ
「脾」の働きが弱くて「気」が不足するのが「気虚」タイプです。
③「肝」ってどんな働きをするの?
「肝」は、「気」や「血」や「津液」を全身に運んで配る働きをしています。「肝」が動かす「気」に載せて、体の必要な場所に必要な分量の「血」や「津液」を提供します。
また、「肝」は情緒や感情の調節、筋肉の働きの調節も行います。緊張したり興奮すると「肝」の働きが過剰になり、手が震えたり、筋肉が痙攣する動きも「肝」が関わっています。
「肝」の働きが弱まると、「気」や「血」や「津液」の流れが滞り、それらが余っているところと足りないところの偏りが生まれ、過剰と不足が共存します。
「気」が全身を巡らないので抑うつ気分になったり、「気」が不足するので倦怠感や風邪をひきやすいといった「気」の不足症状が現れるのが「気うつ気滞」タイプです。
④「血」はどうやって作られるの?
「腎」に蓄えられている原料と「脾」が食べ物から抽出した原料を結び合わせ、「血」の素材が作られます。「脾」と「肝」が、この「血」の素材を「肺」に持ち上げます。「肺」は、大気中の「清気」をこれに結びつけて「血」を完成させます。
また「血」を作る働きは、寝ている間に活発になるので「血」を増やすには十分な睡眠が食事以上に重要です。
⑤「心」って何?
この「血」を体中に送り出すのが「心」です。西洋医学の心臓と同じですが、漢方の「心」ではポンプの働きの他に知能や精神活動に関わります。「心」は、記憶や睡眠、意識状態、言語機能などに関わっており、身体を統括する司令塔の役目を果たします。
「心」は「血」を燃料とします。「血」が十分に「心」を潤わすと気分もゆったりして、夜には熟睡できます。「血」が不足するとゆったりした気分が保てず、イライラや夢をたくさん見たり、もの忘れが多くなったり、不安にかられるようになります。
⑥「血」はどうやって身体を巡るの?
「肺」で完成した「血」はいったん「心」に戻り、「心」の力で全身に押し出され、「肝」の働きで勢いよく全身に広がります。「脾」は、全身に広がろうとする勢いを血管の中に納まるように制御します。流れの末端では、必要な場所に必要な量の「血」が届くように「肝」が調整を行います。
このような流れの仕組みに、「熱」が動きの土台を提供しています。
⑦「血」と「脾」・「肝」の関係とは?
「血」を導く「気」の動きを制御しているのが「肝」です。身体の必要に応じて「肝」が「血」を必要な場所に配分しています。ところが、イライラやストレスが溜まって「肝」に異常が起きると「血」の動きが悪くなり、滞った状態になります。これが「瘀血(おけつ)」タイプです。
「脾」は、途中まで作った未完成の「血」を「肺」まで持ち上げます。
「肺」で出来上がった「血」を、「心」から全身に広げようとする力に対し、「脾」が「血」が血管内をスムーズに流れるように働きかけ、一定方向に流れる強い力を与えます。「脾」は血管壁を良い状態に保ち、むくみを起こさないよう働きます。
このように、「脾」は「血」の循環作用にも関わっています。
⑧「肺」って何?
漢方の「肺」は、呼吸の他に「津液」を全身に配る働きもしています。過食や過飲で必要以上の水分が身体に取り込まれると「津液」となって「肺」に運ばれます。大量の「津液」は「肺」に負担をかけ、次第に働きを悪くさせます。「津液」が配られなくなり、身体で滞り、溜まります。停滞している「津液」は、身体の役に立たない「湿(しつ)」となって害を及ぼします。
「湿」が鼻から溢れてアレルギー性鼻炎の原因となったり、呼吸の通り道に溢れて喘息の原因になったりします。さらに「肺」は「大腸」とも関係が深く、「肺」から溢れた「湿」が「大腸」に流れると下痢や軟便につながります。
以上のように「気」「血」「津液」と五臓が補完しあいバランスを取りながら、身体が動いていると漢方では考えています。
今までの常識や西洋医学的に理解しようとすると、漢方って訳が分からなくなります。でも、全く違う世界をその世界の理屈に沿ってたどっていくと、納得できます。特に女性は、ホルモンバランスの変動など実感することが多いので、漢方の理屈も身体で納得できるのではないでしょうか?
認知症の周辺症状や、化学療法の副作用だけでなく、介護に携わるあなたの体調管理にも漢方が役立てば幸いです。
2024年こそ、あなたがもっともっと健やかに楽しく過ごせるよう祈ります。
補注
*1: 『症例でわかる東洋医学 読体術-8つの体質と漢方薬活用』2023年1月発行、仙頭正四郎(せんとう・せいしろう)著、一般社団法人農山漁村文化協会発行、定価1,600円+税、ISBN978-4-540-21132-4 https://honto.jp/netstore/pd-book_32223172.html
☆かながわ未病改善ナビサイト「未病改善 ー 未病改善チェックシート」神奈川県健康医療局 保健医療部 健康増進課 https://me-byokaizen.pref.kanagawa.jp/intro/me-byocheck.html
☆一般社団法人日本東洋医学会「漢方の診察:基本概念」https://www.jsom.or.jp/universally/examination/index.html
以上